沿革
ナノサイエンス・ナノテクノロジーについて
ナノサイエンス・ナノテクノロジーは、10億分の 1メートルを単位とする微小世界 (原子数にして数十個から数万個の集まり )で実現する新奇な科学現象の発見・理解とそれらを活用したナノスケール新機能・新材料の発見・創製、そのための超微細加工技術、超精密測定といった最先端科学技術の総称であり、今日の自然科学技術の根幹をなす要素科学技術として学際融合的に発展し続けています。その特徴は分野の枠を超える開放系であり、今日のナノサイエンス・ナノテクノロジーを基盤とする萌芽研究が明日のエマージングサイエンス(新たに勃興する科学)を生み、それが未来科学技術のキーテクノロジーに育ちうるので、複合学際的な進化への迅速な対応が求められます。
大阪大学におけるナノサイエンス・ナノテクノロジーを基盤とするエマージングサイエンスへの取り組み
2002年に設立されたナノサイエンス・ナノテクノロジー研究推進機構は、このような学際性の極めて強い先端分野に関する研究推進、国際・産学連携、人材育成、広報活動を、部局を横断して組織的かつ戦略的に統括し、全学的な教育研究の推進を図ってきました。このうち人材育成活動として多くの実績を上げてきた「ナノ高度学際教育研究訓練プログラム」を基に、計算機材料デザイン(CMD: Computational Materials Design)チュートリアル活動を加えて、2008年12月1日に大阪大学ナノサイエンスデザイン教育研究センター(Institute for NanoScience Design)が発足しました。一方、全学横断の長期的展望に立って教育研究の方向性を定め、関連部局間のより有機的な連携を図るために2010年4月1日に大阪大学ナノサイエンス・ナノテクノロジーアライアンスが創設され、研究推進機構の役割を引き継ぎました。
2022年4月にナノサイエンスデザイン教育研究センターは新たな使命を担って、エマージングサイエンスデザインR3センターに改組され、ナノサイエンス・ナノテクノロジー分野を基盤として新たに勃興する科学(エマージングサイエンス)の飛躍的発展のために理工系の横断・連携・融合領域に関する各種R3(アールキューブ:recurrent, reskilling, research retrainingをいう)教育研究プログラムを企画し、及び実施するとともに、ナノサイエンス・ナノテクノロジー分野に精通した理工系の研究者及び技術者の人材育成を図ることを目的としています。
本センターにおける人材育成プログラムの歴史
2004年度より国の人材育成施策に先駆けて、それまで各部局で個別に実施してきたナノサイエンス・ナノテクノロジーに関連する講義を部局横断大学院博士前期課程向け副専攻型プログラムとして再編提供し、さらに同時に国内唯一のナノ理工学社会人教育のための公開教室とライブ遠隔講義を併用した広域的プログラムです。両プログラムとも講義のみならず最先端機器を使用した集中実習を盛り込み体系化した高度学際教育プログラムを開始しました。さらに、企業からの講師によるナノテクの社会受容・企業における実践例などを学ぶシリーズ講義「ナノテクキャリアアップ特論」が博士前期課程プログラムの必修科目となり、実習設備の充実も図られ、2008年度からは大学全体の大学院高度副プログラム、社会人科目等履修生高度プログラムとして総長名で修了認定されるようになりました。これら人材育成活動を恒久的に実施することを目的として、2008年よりナノサイエンスデザイン教育研究センターが創設され、産学連携相互人材育成を支援する多数の企業からなる(一社)大阪大学ナノ理工学人材育成産学コンソーシアムも発足しました。2010年からは「ナノテクキャリアアップ特論」の学外5大学へのライブ配信も順次開始されています。一方、2005年度より博士後期課程向けに本格開始された将来のキャリアパス促進のための幅広い視野と社会性を付与する副プログラムでは、異分野融合的な新規研究テーマを教員と共に企画・討論・実施する学際萌芽研究訓練プログラム、企業併任特任教授の指導を受ける産学リエゾンプロジェクト指向学習型教育研究訓練プログラムが実施されています。また、2009年には博士後期課程社会人特別選抜学生が、社会人教育として夜間開講されている講義群を受講(遠隔聴講を含む)する高度副プログラムも整備されました。
さらに、2010年度より、ナノリスク評価、材料の標準化、知財、科学技術コミュニケーション、未来のデバイス・システムに向けた科学技術デザインなどのナノテクリテラシーとして位置づけられる、討論を盛り込んだ土曜集中講義「ナノテクノロジー社会受容特論」及び「ナノテクノロジーデザイン特論」が前・後期課程、社会人共通で新規に開講され、社会人を含めた少人数討論及び演習が実施されています。2011年度からは前期課程に新制度の副専攻プログラム(14単位) と後期課程の高度副プログラム、さらに英語によるオランダ・グローニンゲン大学との交換講義(その後順次ベトナム、タイ、マレーシアへも配信開始)が新設され、2012年度からはナノテクに強い関心を持つ文系出身学生向けに博士前期課程のナノテク文理融合プログラムも開始されるなど、大学院生が将来に向けての更なるキャリアアップに繋がるプログラムの充実が図られています。また、マレーシアなど大学院生を含む若手研究者の育成のための短・中期招へいや、現地ワークショップの開催などの国際人材育成プログラムも定期的に行われています。高大連携の一環として高等学校のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の出前講義と研修受け入れを2010年に開始し、毎年継続して行っています。2014年度より社会人教育ではコース横断型プログラムも走り始め、大学院生に対する海外教員によるサマーレクチャーも開始されました。
2016年度には社会人教育が文部科学省職業実践力育成プログラムに認定され、2017年度より厚生労働省専門実践教育訓練給付金、人材開発支援助成金の対象講座に指定されています。また、同年度には社会人科目等履修生高度プログラム修了者を対象とする博士号取得のための大学院博士後期課程社会人ナノ理工学特別コースが、理、工、基礎工学研究科との連携で開設され、春・秋に社会人受け入れを開始し、大学院博士後期課程副専攻プログラム(14単位)も整備されました。また、ASEAN地域の人材育成活動としてベトナム・ハノイの日越大学大学院修士課程ナノテク専攻の教育に参画を開始し、入門講義を現地出張とオンラインで毎年提供しています。2020年度より社会人教育では、産業界からの要望にも沿う形で、リカレントのみでなくリスキリングの要素も加えて、従来の4コース制から新たにナノライフサイエンスを新設した5コース制にカリキュラムを大幅編成替えしました。また、大学院短期留学生プログラムであるOsaka University International Certificate Program on Nanoscience and Nanotechnology (OUICP-nano)により、ASEAN地域と結んだオンライン講義と短期の招へい研修を開始しました。また、ベトナム・マレーシアと本学を結ぶトライアングルの国際ジョイントラボによって現地研究者・大学院生との共同研修の場ができたことで国際人材育成活動が強化されています。2021年度末現在の本プログラム受講者数の18年間の実績は、博士前期課程受講者数1143名(同修了者数631名)、博士後期課程受講者数132名(同修了者数103名)、社会人教育受講者数1449名(同修了者数1296名)、合計受講者数2724名(同修了者数2030名)に達しています。
これらのプログラムは、2004年度文部科学省科学技術振興調整費・新興分野人材養成プロジェクト「ナノ高度学際教育研究訓練プログラム(2004.7-2009.3)として選定され、社会人教育と合わせて国内唯一の多部局横断型ナノサイエンス・ナノテクノロジープログラムとして高い評価を得ました。これらの実績のもとに、文部科学省特別経費にて「ナノサイエンス・ナノテクノロジー総合デザイン力育成事業」(2009.4 -2013.3)、更には、「社会に開かれたものづくり理工学の国際人材育成モデル事業」(2014.4-2016.3)、「産学官共同によるイノベーション創出高度人材育成推進(ナノ理工学分野)」(2016.4-2019.3)として順次拡充発展が図られ、現在は基幹経費化されています。 一方、社会人教育の2009年度よりの有料化実施に伴い、人材育成プログラムに対する企業側の一層の理解と支援、企業側からの助言と提言を頂戴し、新しい産学連携ネットワークを形成するために、一般社団法人大阪大学ナノ理工学人材育成産学コンソーシアム(略称ALICE-ONE) が2008年12月に結成され、センターにおける社会人教育の支援とともに、本センターと連携してナノ理工学情報交流会、ナノ理工学セミナーなど、参加企業とのナノ理工学を基礎とする勃興科学技術に関する産学間の情報交換を図っています。直近では対面とオンラインのハイブリッドで年間800名近くの参加者を得ています。
2022年度からのセンター名称変更に伴い、これらの活動は新しいエマージングサイエンスデザインR3センター(英語名称 R3 Institute for Newly-Emerging Science Design、略称INSD)に引き継がれました。Recurrent and Reskilling educationとresearch Retrainingの3つのRを柱として、学内外の組織とのさらなる連携支援の下に、ナノ理工学を基盤として、これからの持続可能な社会を支える新たなエマージングサイエンス・テクノロジーの学内はもとより、国内、そして海外の大学院生・社会人を主な対象とする人材育成活動へと発展を続けます。