いまさら聞ける相談窓口
相談窓口の担当およびアドバイザーへの質問:基本的質問大歓迎です。
質問
Q1. 水素原子には電子は一個しかないのに、1s軌道に加えて、他の2s、3s軌道まで考える必要があるのでしょうか?
A. 回答は こちら
Q2. 狭い空間に閉じこめた方が電子のエネルギーが増加することは理解しています。しかし、バルクで真性半導体となる物質をナノ粒子にした時に伝導帯と値電子帯はどのようになるのでしょうか?また、光の吸収波長はバルクと比べてどのようになるのでしょうか?
A. 回答は こちら
Q3. これから半導体をテーマに勉強しなくてはなりません。大学学部レベルでの量子力学の良い参考書があれば教えてください。
A. 回答は こちら
Q4.「結晶学」で、結晶粒界での微量な不純物元素の添加効果や物理現象(機械強度や電気特性など)を説明できるのでしょうか?
A. 回答は こちら
Q5. 量子力学での波とは何なのでしょうか?これまでは確率の波と理解していました。波動関数Ψとは、絶対値を二乗すると確率密度になるという性質の関数という理解でよろしいのでしょうか?
A. 回答は こちら
Q6. 通信機器のフィルターとして、圧電性の薄膜が使われる理由を教えてください。
A. 回答は こちら
Q7. 二相系における化学反応において、バルク相反応に対する界面反応の割合を評価するためにはどのようなアプローチがあるのでしょうか?
A. 回答は こちら
Q8. ①メモリ用途とパワー半導体用途のトランジスタやキャパシタの構造や動作原理がうまく理解できないので教えて頂けないでしょうか。
②MOSトランジスタの材料をSiからGaN、SiCに変わることで消費電力を減らすことができるのでしょうか
③集積度を高くできないためにメモリ用途でGaNやSiCが使われないのでしょうか。
A. 回答は こちら
Q9. 化学や材料が専門で電気回路について基本的な知識がないので、位置から勉強したいと考えています。参考図書やおすすめの書籍があれば教えていただきたいです。
A. 回答は こちら
Q10. 「デコンボリューション」はどのように理解すればよいですか?
A. 回答は こちら
Q11. 第一原理計算や量子化学の参考資料のオススメはどのようなものがありますか?
A. 回答は こちら
Q12.交換相互作用が強くなると同じスピン状態をとったほうがエネルギー的に安定になり、強磁性を発現しやすくなるということなのでしょうか。
A. 回答は こちら
Q13. 光があたると電子が動き、電子と正孔ができてその間で電気が流れるという程度の知識はあるが、これが基板や電化製品等にどう生かされているのかという所がつながらない。イメージとしてはこの1つ1つのスイッチが遷移金属酸化物としてあり、数nm程度の大きさである為、デバイスには数万以上積載している、また今後更に積層数を増やしたり、小型化していく為にご紹介されたような酸素イオンで動く半導体がある、という理解で良いでしょうか。
A. 回答は こちら
Q14. 構成元素の種類、圧力、温度、不純物で格子定数が変化するとバンドギャップが変化すると記載がありましたが、格子定数の増減によってバンドギャップはどのように変わるでしょうか。
A. 回答は こちら
Q15. 講義内で電子の有効質量という言葉が出てきました。具体的なイメージがわかないのですが、どのように理解したらいいのでしょうか。
A. 回答は こちら
Q16-1.デバイスにもよるかもしれませんが、無機半導体としての特性とは一般的に何を指しているのでしょうか?高速で処理できるという理解でしょうか?
またバンドギャップの差Egが小さい程(導体のように0では無い範囲で)、電子の受け渡しをスムーズにできる為、半導体として優れているという理解で良いでしょうか?
A. 回答は こちら
Q16-2.また、バンド構造のグラフ(横軸がk波数、縦軸がEエネルギー)ですが、この横軸kの意味が良く理解できていませんので教えて頂きたいです。
A. 回答は こちら
Q16-3.バンドギャップを議論する時はk=0で議論していますので、それ以外での差は半導体としての特性とは無関係ということでしょうか?
A. 回答は こちら
Q16-4.基本的な電子軌道、分子軌道エネルギー、π電子、等の分子化学の基礎知識について理解不足な状態です。分かり易く記した本を教えてください。
A. 回答は こちら
Q17.Wavevector-Energeyのグラフでの縮退の考え方/見方ですが、重なっているところが縮退の認識になりますが、合っていますか?
その場合、任意のwavevectorで重なっている場合は、逆格子上のその位置で縮退しているという考え方でいいでしょうか?
A. 回答は こちら
Q18.固体中では、電子は異なる波数を採ることができ、波数によってそのエネルギーが連続的に変化するということでいいのでしょうか。
分子軌道だとエネルギーは量子化されていてかつ特定の値をとっていますが、固体中では分子のように電子が制限を受けないのでエネルギーの量しか起きていないというようなイメージでしょうか。
A. 回答は こちら
Q19. p軌道の形は教科書によっては球2つのダンベルであったり、楕円球2つのダンベルであったりしますが、この差はなんでしょうか?
A. 回答は こちら
Q20.熱をかけることで磁石がキュリー温度になると磁石ではなくなるという話でしたが、熱をかけると磁力がなくなるのはなぜでしたしょうか。原理を教えて頂けますと幸いです。
A. 回答は こちら
Q21. ネルンスト式で ΔG=ΔG0 + RT ln (√P/1) と記載があります。
ΔG=-RT ln K であらわされると思いますが、√P なぜ圧力なのか、が感覚的に理解できませんでした。
A. 回答は こちら
Q22.グリーン関数とKKRは違うという説明だったという認識ですが、グリーン関数とKKRの差はなんなんでしょうか。
A. 回答は こちら
Q23.講義 「超解像度蛍光顕微鏡法」でコアな内容が多く難しく感じています。
バイオの基礎的な内容に関して、お勧めの参考書があれば教えてください。
A. 回答は こちら
Q24.各元素毎の基底関数の設定の仕方がわかりませんでした。関連する論文等を読んで参考にするしかないのでしょうか?
A. 回答は こちら
Q25.講義中で反応経路を計算した研究の紹介がありましたが、「計算の妥当性」はどのように判断しているのでしょうか。特に反応経路では活性化エネルギーはどの程度であれば妥当なのでしょうか(実際は反応温度によって異なると思いますが)
A. 回答は こちら
Q26.カソードルミネッセンス(CL)分析についてご質問なのですが、ピークシフトやブロードになる原因が不純物の濃度変化や残留応力に起因するという認識で正しいでしょうか。その特定は過去の文献と比較という形になるのでしょうか、他にピーク同定例(手法)があれば教えて頂けると幸いです。
A. 回答は こちら
Q27.光合成の仕組み:膜の内側にH+プロトンが多くなる理由は PQとPQH2の変化の中で膜の外側からプロトンを受けて、膜の中でプロトンを脱離しているご説明でした。光でプロトンを動かしていると言えるかもしれません。さて疑問ですが、光合成の電子の起点は水の酸化と理解しております。水の酸化は2H2O→ O2+4H+ + 4e- とよく表現されます。水の電気分解のアノード側の反応です。膜の内側のプロトンが増えてしまうのは、膜の内側にいる水の酸化由来のプロトンなのではないでしょうか?
A. 回答は こちら
Q28.初期充電後の正極材料、充電前と充電後の測定をされていますが、どのようにやったのでしょうか?測定のために電池を分解しないといけないはずと思っていますが、同じ電池サンプルから測定したデータなのでしょうか? 充放電しながらリアルタイムで測定したようスライドに見えたのですが、念のため確認させてください。充電しながら測定なのか、STEMで見れるくらい薄い電池を作って充放電後に測定されているのでしょうか。
A. 回答は こちら
Q29.理解が追い付かなかった不純物問題で質問です。計算条件での不純物元素設定と不純物濃度を0にしますが、存在するけどいないという不純物元素は計算上でどんな影響を与えるのでしょうか。
A. 回答は こちら
Q30.カソードルミネッセンスとフォトルミネッセンスは発光の方法は異なりますが、同じ材料であれば同じ波長で見られた発光は同じバンド間の遷移という認識でよろしいでしょうか。
A. 回答は こちら
Q31.半導体レーザーと発光ダイオードの違いが今一つ分からないままになっています。何が一番の違いになるのでしょうか。
A. 回答は こちら
Q32.TEMとSTEMの違いに関して、違いはなんとなく理解しているつもりですが、イマイチ腹落ち感がありません。原理的(構造的?)な面から、それぞれのメリット(得意な解析)とデメリット(不得手な解析)が分かるように、教えて頂けないでしょうか。専門外の人に説明する際に分かりやすい様に教えて頂けましたら幸いです。
A. 回答は こちら
Q33.セラミックスの単結晶材料で、不純物量を比較した際に2桁ほど違うサンプル間で透過率がほとんど変わらない原因を 探索しています。カソードルミネッセンスを行ってみたのですが影響因子の特定には至りませんでした。
不純物が多いのにも関わらず透過率が高い要因は何が考えられるでしょうか?またそれを解析できる手段(測定法)がございましたらご教授頂きたいです。
A. 回答は こちら
Q34.いわゆる触覚センサは力をかけられない部品をロボットが扱う、人間の間隔的な部分を定量化する際の解決手法として運用することが期待されますが、今後の進展として、どういった道筋をたどるのでしょうか。小型化していくのか、センサ感度を向上させるのか、また産業的にどこをターゲットにしていくのか。そういった展望のところをお伺いしたいです。
A.回答は こちら
Q35.電子回折は授業にもあったように結晶構造解析によく使われると思いますが、非晶性物質での応用例などあれば教えてください。業務では非晶性物質しか扱っておらず、周りでも回折ではなく散乱による分析を行っていることが多いです。
A.回答は こちら
Q36.MEMSの応用デバイスにあまり馴染みがなかったので直感的に理解できなかったのですが,今後の展望としてポンプやバルブのような構造は使用されるのでしょうか?また,これらのデバイスも微細化が行われるのでしょうか?
A.回答は こちら
Q37.プラズマ発光スペクトルの分析は何を見るために使用しているのでしょうか。また、既存の装置に後付けで分光計を取り付けることは可能でしょうか。
A.回答は こちら
Q38.MEMSデバイスと半導体Deviceの明確な違いはありますか?Sensor機能を持ったデバイスはMEMSデバイス、演算目的のものは半導体デバイスといったイメージでしょうか?
A.回答は こちら
Q39. 逆格子空間・波数空間の概念にまだ習熟できておらず、フェルミ球やブリルアンゾーンの図、バンドダイヤグラムを見たときに今一つ実空間との対応がイメージできていないのですが、何か抑えておくべきポイントや勉強が必要なことなどがあればお教えいただきたいです。
A.回答は こちら
Q40 ブルリアンゾーンや逆格子空間というものが導出可能なことは理解できるのですが,これが物理上,あるいは応用上どういった意味づけを持つものなのかということが理解できずにおります。一例でも構いませんので,どういった面で使用されるのか例示いただけないでしょうか。
回答は こちら
Q41 導電帯、禁制帯、価電子帯の図に関してこれらの図はどのように解釈すればよいでしょうか。各帯の意味も含め教えていただけないでしょうか。
回答は こちら
Q42 ブリルアンゾーン前後の概念が難しかったです。状態密度の単語としての意味はなんとなくわかるのですが、それがどういう意味なのか、どういった理解でどういう風に使うのかが、わかりませんでした。
回答は こちら
Q43. 光分子を取り込むことで物性が変化したりなどが考えられます。蛍光物質の選定の際に気を付ける点などありますか?
回答はこちら
Q44. 結晶構造解析は無機材料のように分かりやすい結晶をつくってブラッグ回折する材料でできる、というのは分かるのですが、タンパク質で結晶構造解析が行えるイメージがあまりついていません。
どのように結晶化しているのか教えてほしいです。 結晶化のための前処理を行っているのでしょうか。結晶化させるこ とで構造は変化するのでしょうか。
回答はこちら
これまでの講師との質疑応答
※ご質問の前に検索、ご一読ください。
コース1
Q. 電場でフェルミエネルギーの位置をコントロールする話がありました。どのような理由でフェルミエネルギー位置がずれるのかがわかりませんでした。MOS-FETのようなゲートに正負の電位を与えたときに、半導体のEfが変わるのは、実空間で考えると、例えば負電位によって、n型であれば電子が追い出される。その時のフェルミ球を考えると、電子が減り球の径が小さくなるからEfが変化するのでしょうか? それともPN接合のダイオード素子に電圧をかけた時のようにポテンシャルがEfを下げるのでしょうか?ポテンシャルがEfをさせる場合、バンドも共にずれてしまうように思われます。材料に電場がかかることで、フェルミエネルギーがバンドに対して移動する理由がわかりませんでした。
A. MOS-FETと同じように、絶縁体を挟んで金属電極から磁性半導体(例えばp型)に正バイアス電圧をかけると、ちょうどコンデンサーのような構造となるため磁性半導体側に電子が集まりフェルミ準位(電子の化学ポテンシャル)が変化します。また、逆の負バイアス電圧をかけると、磁性半導体側にホールが集まり、フェルミ準位が変化します。磁気的交換相互作用のフェルミ準位依存性を計算しておけば、磁性半導体を強磁性⇒常磁性、常磁性⇒強磁性、へとゲート電圧の符号と大きさによりスピン間の相互作用が自由に制御できるのが半導体スピントロニクスの重要なポイントです。
Q. 未知の材料などを計算したときに、最終的にどの程度正確に計算できたかを理論的に研究した例などはあるのでしょうか?あるいは手法間で精度を理論的に(実際の計算結果だけではなくて、数式などを比較することで)比較したものなどあったりするのでしょうか。
A. 未知の材料に対する計算の評価は、実際の実験で検証するか、もしくは、より近似の程度の高い理論計算で検証するか、のどちらかでなされると思われます。もちろん、理論計算で用いた原理的な近似の範囲であっても、計算上仮定されたパラメータ(カットオフ等々)については収束をきちんと確認することはその評価において大前提と思います。
Q. MT球は球対称ポテンシャルを仮定していたと思いますが、フルポテンシャル法はMT球を使いながら、非対称なポテンシャルを想定していると考えてよいのでしょうか?そうであるなら、MT球面でポテンシャルが場所により異なってしまうように思います。それをほぼ球対称と考えて境界面での段差を無視してMT球外と接続したと考えてよいでしょうか?
A. ご理解の通り、FLAPW法ではMT球を用いて波動関数や電子密度・ポテンシャルの基底を分けている空間を定義しています。ご質問のポテンシャルですが、MT球内は球面波(球面調和関数)で、球外は平面波で展開されており、クーロンポテンシャルは球面上で連続となるようにポアッソン方程式が計算されています(フルポテンシャル法)。交換相関ポテンシャルは電子密度の関数ですので、電子密度が連続であればそれも連続となりますが、電子密度は波動関数の二乗なので、波動関数の連続性が重要になります。その波動関数の連続性を保つため、球内の球面調和関数の展開のカットオフは通常たいへん大きく仮定されています(LMAX=8とか10)。我々のグループのHiLAPWコードでは、平面波を全空間で定義し、MT球内を球面波マイナス同じLMAXまで球面波展開された平面波で表現しているため通常のFLAPW法での大きなLMAXを用いる必要はありません。結局、どちらにしてもMT球面上での不連続性は無視できるくらい小さく計算されています。
Q. フェルミ面が2次元で表現されているのは、酸化物は平面的な伝導層だからでしょうか?
A. はい。電子状態の2次元性が高い物質です。
Q. スピン揺らぎでのギャップがcoskで正負あるとはどのようにk空間で表せるのでしょうか?3次元的に描くとフェルミ面より上側にΔ、下側にΔの位置に電子がいるということでしょうか?また、対は+Δ同士k、-k、-Δ同士k、-kでペアを組むのでしょうか?エネルギー的に上側は存在しにくいように思いました。
A. まず、ギャップ関数Δ(k)がcos k_x-cosk_y と変化しても、実際のギャップは絶対値、|Δ(k)|なので、あくまで正(またはゼロ)となります。また、クーパー対ですが、(k_x, k_y)と(-k_x,-k_y)で組みますので、Δ(k)∝cos k_x-cosk_y の値としては同じところで組んでいます。
Q. 電流が流れている状態の超伝導電子対はk空間で進行方向にずれているのでしょうか?
A. はい。電子対が有限運動量を持った状態になります。
Q. 汎関数に関して、gaussianを使用した論文ではよくB3LYPを用いていることが多い認識なのですが数多くある汎関数のなかでB3LYPが使用される理由はどういったものなのでしょうか?
A. 率直に言いますと、有機系分子では、パラメーター設定が大変優れており、実験結果をよく再現するからと言うことかと思います。
Q. 講義中に実験と比較するのが大事とおっしゃられたと思うのですが、反応計算を実施する上ではどういった結果と比較し検証するのが適切と考えられるのでしょうか?例えば、シリカのエッチング反応の場合、反応熱で比較しようとすると第一原理計算結果と実験の値はなかなか一致しなく、計算結果の妥当性をどのように評価すればよいかご教授頂きたいです。
A. 計算の実行条件(一般的には、真空0K)です。反応する物質がホット(エネルギーを過剰に持っている場合)には、かなりの差が出てくるものと思われます。反応温度でのエンタルピーや自由エネルギー(完全ではありません)を求めることである程度補正も出来るとは思いますが、完全ではないかと思います。反応の遷移状態をきちんと調べるのも必要かと思います。
Q. 金錯体の吸収スペクトル計算において20nmぐらいのずれはほぼあっているというお話でしたが、錯体の吸収スペクトルの計算においてどれくらいのずれまでが許容範囲であると考えられますでしょうか。
A. 5,60nm程度ずれていてもだいたい合っているとする様です。
Q. Gaussianによる構造最適化の前に、配座探索による初期構造決定を実施すると思いますが、有機高分子材料における配座探索手法についておすすめ等ありましたらご教示いただけませんでしょうか。また、有機高分子材料における配座探索に機械学習の1種であるベイズ最適化手法の適用などは可能でしょうか。
A. Gaussianでは、高分子の配座探索はかなり厳しいかと思います。どちらかというと温度レプリカ交換法などの高精度MD計算の方がよいかと思います。機械学習による配座構造探索も出来るかもしれませんが、私はやったことがありませんので少し答えに窮します。
Q. Gaussianにて双極子モーメントを計算する際に、Mulliken電荷やLöwdin電荷などがあると思いますが、使い分けなどのポイント等ありますか。
A. 電荷解析には正直正解があるとはいえませんが、Mulliken電荷はあまり信用できません。Hirshfeld解析やNBO解析の方が比較的よい結果が出ると思います。
Q. Gaussianなどの量子化学計算と機械学習の錬成による有機高分子材料のCMD(Computational Materials Design)の例などがありますか。
A. 高分子に関しましては、あまり知識がございません。基本的に第一原理計算で高分子の安定構造のグローバルミニマム(最も安定内構造)を探索することは基本的に困難です。
Q. ZB構造とRS構造のエネルギー差を求めて安定性を議論し、記述子(rA+rB)、(rA-rB)だけでもおよそのモデルになることは分かりました。さらなる意味を考えたい場合、エネルギー差ではなく、ZB構造とRS構造それぞれのエネルギー関数の形を求める必要があるように思いました。それらを求めるようなことはできないのでしょうか?例えば、変数を少し仮想変位させて数値計算し、エネルギーへの関係性を見つけて、そのいくつかの変数の和、差、積や商などでエネルギー関数のモデルは作れないでしょうか?あるいはLASSOの手法で記述子をたくさん用意して求めるようなことはできないのでしょうか?EXP型が含まれる記述子には構造のエネルギーに何らかの意味がありそうに思いました。エネルギー差だけからでは、意味が分からないのではないでしょうか?
A. 個々の構造のエネルギーモデルを求めることは、究極的には原子間ポテンシャルのモデルをつくることになります。どのような応用を前提とするかによって、差として考えるか、個々のエネルギーのモデルとするのかを考えることになると思います。EXP型などを記述子に含めることはその表現力を上げる意味で重要ですが、その物理的意味は何らかの基礎理論が明確な場合を除いて難しい問題かと思われます。
Q. 良い特徴量を見つけるためのコツはありますでしょうか? それともLIDGのようにある手つづきをもとに候補となる記述子をたくさん生成して、総当たりで試す方が良いでしょうか?
A. たいへん重要なポイントであると思います。とにかく予測性能の高いモデルがほしいのであれば、たくさんの記述子を用意して(もしくはLIDGの様なツールで生成して)、スパースモデリング手法により交差検定により刈り込むのがよいと思います。一方、解釈可能なモデルにこだわるようであれば、(物質・材料研究者の観点で)分かり易い記述子、直感に訴える記述子を用意する必要があります。
Q. キュリ温度の予測では、全物質での調査がされていますが、現場の観点から考えると、欲しい磁力レベルでTcの向上する方法を知りたい場合が多いのではないかと思いました。従って、Ni,Co,Mn,Fe系をそれぞれ分けて、Tcの機構を調べるのがよいように思いました。そのようにされなかったのは、データ数が少ないからでしょうか?全数計算されているとのことでしたのであとで区別することもできるから一度に計算したということでしょうか?
A. まず、講義で紹介したデータは計算データではなく、実際に合成されて、Tcが測定された物質の実験データです。従来の考え方ではご質問した通りで、遷移金属の種類を分けてTcの機構を調べるが良いと考えられています。ただ、より真剣に考えて、なぜそのような考え方が主流なのかを検討するとその考え方を基にしている仮説は「遷移金属種類が同じ」=「従う法則が同じ」である。この仮説は経験的ですが、必ずしも正しいとは限らないです。「従う法則は結晶系に依存する」や「従う法則は希土類金属の種類に依存する」などという考え方もありえます。データ科学アプローチは従来のアプローチと違って、収集できたデータから法則性を探索するというタスクに対して、予め主観的にデータを選定せず、ありえる仮説(法則)を想定し、統計検定を用いて評価して、最もらしいのはどれなのか、手元にあるデータから何を、どこまで言えるのかを定量的に評価します。
Q. SPoD (Super-resolution by Polarization Demodulation)-NET「画像データではなく計測過程を学習するため、画像が学習時と大幅に異なっても高精度高速な画像復元が可能」と記載されていました。 SEMでは画像をきれいに見せる方法として、電子ビームの広がり(正確には、二次電子の発生分布から検出器やアンプ出力から画像化までの計測過程を含む広がりかな?)を決めることでデコンボルーションして分解能をよくする手法があるようです。
1)SPoD-NETは計測系のボケになる関数の逆関数を機械学習で求め、コンボルーションを行うという理解でよいでしょうか?
A. 深層学習は非線形モデルですので、非線形変換を行います。その内部にデコンボリューションの作用を持つ関数は含まれていると思いますが、必ずしも線形なデコンボリューションと同じ結果になるとは限りません。また、SPoDの物理的な超解像原理自身が非線形であり、単純な線形デコンボリューションでは超解像化できません。今回、深層学習を使うことではじめて得られた成果です。
Q. SPoD-NETの計測系の光量や絞りなどの計測系の条件を変えてしまうと、逆関数が変わってしまうと考えてよいでしょうか。
A. SPoDの場合は光量ではボケ関数は変化しないので影響はないと思います。ただし、撮影カメラの絞りなどはボケ関数に影響を与える可能性があり、復元モデルの修正学習が必要になる可能性はあります。
Q. 機械学習の手法は、基本的には内挿領域を扱うものと認識しておりますが、外挿領域を予測しようとした際には線形モデルと非線形モデルを比較した場合、その外挿領域予測可能性が相対的に高いのは線形モデルと認識しております。外挿領域予測可能性をグラフのような形で表すとするとどのような形になりますでしょうか?
A. おっしゃるように機械学習の手法は、基本的には内挿領域を扱うものであり、内挿精度の研究は進んでいますが、外挿精度についてはよく分かっていません。おっしゃるように外挿に使いたい場合は線形モデルのような単純なモデルの方が大きな推定誤差は少ない傾向があると定性的には言えると思いますが、実際のデータが外挿領域でどのようなモデルに従うのかデータからわからない以上は、何とも一概には言えません。データが外挿領域での挙動について予め何等かの手がかりがある場合には、適切な学習モデルを選べる可能性はあると思います。
Q. 内挿領域から外挿領域の予測をする際に、例えば線形回帰やPLSであればその直線の延長戦上に外挿領域がのってくるイメージを持っておりますが、決定木やランダムフォレスト、勾配ブースティング木、ディープラーニング等、各種の手法で仮に外挿領域の予測をしようとした場合、どのようなイメージとなりますでしょうか。
A. 上述のようにデータが外挿領域での挙動について予め何等かの手がかりがある場合以外には、何とも言えません。そもそも外挿領域での挙動が内挿領域での挙動と大きく異なる場合には、どんなモデルでも推定はうまくできないでしょう。外挿領域での挙動が内挿領域での挙動の比較的単純な延長であると予想できる場合には、内容領域での挙動をそのまま外挿領域での挙動に延長するようなモデルが望ましいと思います。決定木やランダムフォレスト、勾配ブースティング木、ディープラーニングは、非常に非線形性が強く複雑な内挿が行える半面、内容領域での挙動をそのまま外挿領域での挙動に延長する仕組みがないため、外挿には一般に向いていないと思います。
Q. データ数の少なさに悩むことが多いですが、説明変数の次元(データセットの列数)に比べてデータ数(データセットの行数)が極端に少ない場合、機械学習モデルの構築が難しいイメージを持っております。機械学習アルゴリズムの種類によるところも大きいとは思うのですが、例えばPLSや勾配ブースティング木系では説明変数の次元(データセットの列数)とデータ数(データセットの行数)の比は最低でもどれくらい必要なイメージでしょうか。
A. PLSや勾配ブースティング木系では説明変数の次元よりデータ数が数倍以上あることが望ましいです。説明変数の次元とデータ数がほぼ同じか少ない場合は、Lassoやドロップアウトなど正則化効果を含むアルゴリズムを採用するアルゴリズムが向いています。
Q. 昆布相の作り方でメタマテリアル材料(負の誘電率、負の透磁率)を作れないでしょうか?
A. 通常の電磁メタマテリアルの実現には、光の波長よりも小さなナノスケールのコイルを物質中に無数につくることなどが必要となります。光を用いて金属をナノスケールで3次元に加工する技術や、ダストプラズマが自己組織化する性質を利用したナノレベルの微粒子アセンブリー技術に散逸構造生成される電磁メタマテリアルの登場が期待されていますが、第面積化にはコストがかかります。これらを解決するために2次元や3次元の結晶成長法を駆使して、ナノスケールサイズでのスピノーダルナノ分解による自己組織化ナノ超構造としての昆布相を利用することは十分に可能だと思います。電磁メタマテリアルは「単位素子」と呼ばれる微小単位が電磁波の波長に比べて充分小さな距離をあけて、人為的に等間隔で配置され、電磁波に対して均質な媒質として振舞うように構成された物質ですが、メタマテリアルであるために必ず等間隔で配置されなければならない訳ではないが、それが電気的・磁気的特性を左右する。単位素子とされるものには、人工誘電体や人工磁性体があり、その他にも、高分子材料やフォトニック結晶なども単位素子となります。これらを2次元的な結晶成長によるスピノーダルナノ分解により、自己組織化ナノ超構造として安価に、かつ、大量に製造することは可能だと思います。
Q. 熱電材料でZTを大きくする方法として、素人考えですが、材料を粉にしてそれを圧力で固めたり、粒子が熱でくっつくぐらいまで温度を上げて隙間ができるように固めると、粒子間に隙間(空気)が入り、フォノン散乱が多くなるのではないかと思いました。安くでき、電気伝導はそこそこ大きくできそうに思いました。何か問題があるのでしょうか?
A. 熱電材料でZTを大きくするためには小さい熱伝導率と大きな電気伝導率の実現が不可欠ですので、ご質問のように粉末を焼き固めて粒子間に多くの隙間をつくる焼結技術により、粒子間のつなぎ界面でのフォノンは散乱されて、熱伝導率は小さくなります。その時に同時に電気伝導のパスが確保されないと大きなZTの実現は難しくなります。粒子間の界面では、フォノンと同じように電子も散乱されて電気伝導率が小さくならないような工夫が必要になります。そのためには、フォノンの伝わるパスと電子の伝わるパスを、同じパスではなく、出来ればそれぞれ別の系統のパスにすることにより、大きなZTが可能になります。バルク結晶を作り、メカニカルな変形加工を行い、小さい粒子が弱く結合した破壊寸前の加工により小さな熱伝導率を実現することも可能になると思います。その時も、粒子間の界面での電子の散乱は極力さけ、電気伝導率を下げないようにする必要があります。
Q. 講義の中で、「ポテンシャルパラメータの決定に機械学習を使うのが今トレンドになっています。」とご教示いただいたと思うのですが、具体的に報告数が多い取り組み内容などご教示いただくことは可能でしょうか?
A. 古典分子動力学法では、ポテンシャル関数を仮定して、その係数を第一原理計算や実験の結果を再現するように決めますが、機械学習を利用する場合は、このようなやり方とはかなり異なります。古典分子動力学法では、各原子の座標を入力データとして、ポテンシャル関数からエネルギーや原子間に働く力が計算されますが、機械学習の場合は、例えば、座標そのものではなく、原子の周りの環境を表現する特徴量を入力データとし、これに対して、第一原理計算の結果得られたポテンシャルや力が再現されるように、ニューラルネットワークの隠れ層間の重みパラメータを最適化する、等の操作が行なわれます。物理的な意味を持つポテンシャル関数やパラメータが、必ずしも明示的に示されるわけではないので、「ポテンシャルパラメータの決定」というよりは「ポテンシャルや力の再現」と表現した方がいいかもしれません。手法は発展途上なので、いくつものやり方があります。J. Behler and M. Parrinello, Phys. Rev. Lett. 98, 146401 (2007). の方法を基本とした手法などがよく利用されていますが、他にもあるので、“分子動力学+機械学習ポテンシャル”、” 分子動力学+ニューラルネットワーク”等のキーワードで検索してみると、適用例も含め、いくつも出てくると思います。
Q. ヒステリシスが発生する強誘電体材料は、自発的電気分極が起こる材料であり、BaTiO3の場合はTiとOの間のイオン結合力以外に、共有結合性の結合力があるために原子位置のずれを作り、自発的電気分極が発生する。そのことがヒステリシスが起こる原因であると考えてよいでしょうか?
A. ヒステリシスが起こるためには、分極の関数としてエネルギーがダブルミニマムをもつ必要があります。そのミニマムの位置が自発分極(エネルギー最低位置)に対応します。電界を加えることで、エネルギーにP•Eの項が現れ、ダブルミニマムの一方から他方への遷移(ヒステリシス)が起こると考えることができます。
Q. 双極子遷移バンド間遷移のところで、の中の<kv|p|kc>はバンド間の垂直遷移を意味していると思います。シリコンのような間接遷移の物質での吸収率を計算するときも垂直遷移のみの計算で正しいのでしょうか?間接遷移は無視できるくらい小さいのでしょうか?ここでの計算はフォノンを無視した絶対零度の状態でのシミュレーションということでしょうか?
A. 講義では、垂直遷移のみの計算となっています。おっしゃるように、実際にはフォノンを介した遷移が存在し、垂直遷移では全く吸収のない領域にも吸収があります。垂直遷移の吸収端から低エネルギーに向かって裾(すそ)を引くような吸収スペクトルになります。電子のバンド構造に依って裾の大きさが異なり、実験によれば、Geの場合は、直接吸収端で一段下がってから裾になりますが、Siの場合は、直接吸収端はほとんど見えず、ほぼ連続的に裾が続くようです。フォノンまで考慮した光吸収の計算はまだかなり難しく、汎用の計算プログラムが出るまでにはかなりの時間を要すると思います。
Q. CO2 Hydrogenation into Formateについての質疑応答の中で、「第一原理計算と機械学習を組み合わせた研究を進めていて、何万通り~何十万通りのリアクションパスをサンプリングすることができます。」というお話があったかと思うのですが、この際のinputデータとoutputデータの概要や機械学習モデルの選択方法等について、理解を深めるために可能な範囲でご教示いただければ幸いです。
A. これは、第一原理電子状態の計算結果について、機械学習法を使用して有効原子間ポテンシャルを構築し、その有効原子間ポテンシャルを用いて、古典分子動力学法を行うことを想定しています。古典分子動力学法を用いると、計算時間は格段に速くなりますが、従来の古典分子動力学法では化学反応過程を取り扱うと精度がかなり悪くなります。機械学習ポテンシャルを構築すると、計算速度は古典分子動力学法と同程度の速度で、計算精度は第一原理電子状態計算の精度に近づけることができます。これによって、化学反応の多数の経路を系統的にシミュレーションすることが可能になります。機械学習ポテンシャルはニューラルネットワークを用いる方法やガウス過程回帰を用いる方法があります。ガウス過程回帰を用いることにより、各原子周りの局所環境から求める力の不確定性を求めることができます。多数の原子を含む系の分子動力学法シミュレーションを行いながら、不確定性の大きい構造についてはDFT計算で学習データを効率的に選択して学習データを追加していく、on the fly learningが可能となるのがこの手法のメリットです。しかし、学習データが増えてくると、学習する時間が急激に大きくなることが欠点です。一方、ニューラルネットワークを用いる場合は原子周りの局所環境の持つ不確定性は求められないので、多数のデータを用意して学習させる必要があります。
Q. 触媒をナノ粒子化すると変換効率が上がると聞きますが、バルクとナノ粒子との反応性の違いも計算からわかったりするのでしょうか?
A. これは量子シミュレーションの得意とするところで、バルクの固体表面とナノスケールのクラスターの反応性の違いは理論シミュレーションでかなり理解することができます。電子状態も変わってきますし、分子の吸着エネルギーや反応の活性化エネルギーも変わってくるのがわかります。実験的にはサイズをきっちり揃えて実験をすることは難しいですが、理論的には、サイズの依存性を系統的に調べることができます。
コース2
Q. 半導体の構造とエネルギー体のクローニッヒ・ペニーモデルに興味が出ました。バンドギャップについては存在する事は知ってましたが、上記モデルのシュレーディンガー方程式を解いたことがなかったためです。 質問としましては、このモデルではどこまで実験結果(バンドギャップ測定結果)をうまく説明できるのでしょうか?
A. おっしゃるようにクローニッヒ・ペニーモデルは、1次元で階段状ポテンシャルが非常に高く幅の狭い場合の近似で、バンドギャップの存在を直感的にわかり易く教えてくれます。しかし、実際の半導体では、電子は3次元的に種々の方向に存在する原子によるクーロンポテンシャルを受け、電子間相互作用もあって電子帯構造が複雑になり、バンドギャップ等の実験結果をクローニッヒ・ペニーモデルで説明はできません。ただ、構成元素の種類、圧力、温度、不純物等により格子定数が変化するときのバンドギャップ変化の定性的な理解の一助になるかと思います。
Q. ペロブスカイト太陽電池の作製方法
講義では作製方法として真空蒸着および塗布法の2種類が紹介されていましたが、この2種類はどのように使い分けているのでしょうか。真空蒸着は真空下で成膜するため膜中の不純物が少ないが、塗布法は不純物が入りそうな印象です。なにかその辺に関してコメント等があればお伺いしたいです。
A. ペロブスカイト太陽電池における2つの製膜方法
真空蒸着法は、不純物の混入他を避けることが長所ですが、真空容器のサイズの制限もあり、大面積素子の作成が困難です。太陽電池の低コスト化のため、大面積・高速塗布法としてのロールツーロールに向けた材料とプロセスの研究が進められています
Q. p型半導体の蒸着型と塗布型で材料が異なるのは、前者は溶液に均一に分散しないので塗布法では作製できず、後者は溶液に均一に分散できるので塗布型でも作製できるということなのでしょうか?
A. pおよびn型有機半導体 光電子機能性有機半導体は、特に低分子系の場合は有機溶媒に溶解しないために真空蒸着法による薄膜作製を行っています。一方、低分子または高分子系半導体ではアルキル鎖などを導入することで溶媒可溶性を付与して、塗布法(印刷法)による薄膜作製を行っています。
Q. 本講義でご紹介頂いた磁性演算素子は3入力1出力でしたが、その他の入力数はありますか?あるいは、配置を変更することで重みづけ演算は可能でしょうか?
A. 紹介したものがnand/norの論理演算に適しています。この演算ができれば、(完全系と言うらしいですが)組み合わせでなんとかなるので、十分であり、他の入力数は検討していません。もちろん、入力より出力の数が少ないですから、情報の量が減ってしまいます。ファンアウト素子を使って、情報を分岐したり、情報の移動のタイミングを合わせるために、シフトレジスタを使います。最後に簡単に紹介したように、磁気素子で実現はできます。しかし、現状では、動作の許容範囲が狭いですね。
Q. リチウムイオン二次電池が45℃以上で劣化が加速するとのコメントがありましたが、逆に冷やすと劣化しなくなり寿命は延びるのでしょうか?(より冷やすことによってメリットを見出すことができるでしょうか?)
A. 車載用リチウムイオン二次電池については、最近では空冷よりも液冷式が採用されているように思います。温度管理が電池の寿命に重要であることがわかります。できるだけ温度が高くても安定であればあるほど、冷却に必要なエネルギーロスが減ると思われます。
Q. イオン液体の種類によっては柔粘性結晶を形成するものもあるとのことでしたが、柔粘性結晶を作成する上での指針のようなものはあるのでしょうか。また、素人考えで恐縮ですが結晶を構成するイオン対の中にナノ粒子を凝集させずに取り込むことができればナノ粒子がきちんと配列したバルクの結晶が得られそうな気がしますが、そういった研究はなされているのでしょうか。
A. 柔粘性結晶相を示す化合物の構造としては、分子あるいはイオンが回転しやすい、球状やラグビーボール状が好ましいです。また分子やイオンの側鎖構造に回転しやすい部位がある場合には、そちらの回転運動によって柔粘性結晶となる場合もありますが、イオン全体が回転した場合の方が、より特性に優れた物ができるように思います。ナノ粒子を配列させる鋳型としての役割があれば面白いですが、柔粘性結晶を構成する分子あるいはイオンのサイズはかなり小さく、格子欠陥の空間も狭いため、ナノ粒子を上手に埋め込むことは難しいように思われます。
Q. ベクトルポテンシャルAは物理的に実体のあるものなのでしょうか? 電場や磁場は観測できる為、イメージしやすいのですが。
A. ベクトルポテンシャルについての疑問、実は20世紀に議論になっていました。電場・磁場を与える「方便」と考えることもできたのですが、量子力学的な実験から「ベクトルポテンシャルの実在性」が検証され、現在は実体のあるものと考えられています。
Q. 加速管の電磁波(縦波)→バンチ化ということは、放射光のパルス時間幅は、加速管の構造やそこで使う電磁波の波長で決定されるという理解でよいですか?
A. その理解で間違いありません。つまり、パルス性はどの放射光施設かで決まります。
Q. 単色化のところですが、n倍波が許されると思うのですが、それはどのように取り除いているのかご教授いただければ幸いです。
A. 結晶分光と回折格子分光で方法は異なります。結晶分光でSi(111)反射を使うと(222)反射が禁制なのでもともと抑制され、(333)反射はエネルギーが大きく異なるのであまり気にならない、となります。回折格子の場合は波長によっては結構悩ましい問題になることがあります。一般的にはX線の波長が短くなると反射率も下がることをうまく使う、というのが方法ですが、波長によってはフィルターを使うこともあります。
Q. RIXSで見ているエネルギー領域は光でいうと赤外-可視ですが、通常の赤外-可視を用いた吸収、反射分光、もしくはラマン散乱などと比較すると得られる情報はどのように違いますか?k空間が見えるとかでしょうか?
A. はい、まさしくその通りで、特に硬X線領域になるとk空間での励起、つまり励起の分散関係が見えるという特徴があります。ここが低エネルギー光子エネルギーによる励起と異なるところです。もう一点は、共鳴領域ですと元素選択性があるというところが特徴と言えるかと思います。
Q. 初歩的な質問をさせてください。binding energyの軸についてですが、左側の数値が大きく、右側の数値が小さいのはなぜでしょうか?XPSの結果でそのようなグラフを時々見ますが、いつも不思議に思っております。
A. 元のエネルギー準位はBinding Energyが高いと低い(Koopmansの定理)ので、元の電子のエネルギー準位の並びは右に行くと高いように表示させています。
Q. Volt-second balanceでtonまたはtoffを変化させても、ΔI(+)=ΔI(-)が常に成り立つのはどうしてでしょうか?tonまたはtoffを変化すると、電流が定常状態でなくなるということはないのでしょうか?
A. 本講義では「定常状態」を前提にしています。その場合にはΔI(+)=ΔI(-)が成り立ちます。もし、ΔI(+)>ΔI(-)なら、スイッチを切り替える度にインダクタ電流が増加していくので、定常状態ではありません。ご指摘の通り「tonまたはtoffを変化すると、電流が定常状態でなくなる」です。実際のコンバータでは何等かの理由でtonまたはtoffが変化すると出力電圧がずれてくるので、出力電圧の一部を入力側に負帰還させて元の値に戻しています。この点を理解するには制御理論の知識が必要になるので、講義では省略しました。
Q. 新幹線のモータが直流直巻きモータから三相誘導モータへと変化し、エネルギーロスが少なくなったとのお話しでしたが、三相誘導モータが直流直巻きモータよりもエネルギーロスが少ないのはどのような理由なのでしょうか。
A. 直流直巻モーターはゼロ速度で最大トルクを生成しますが、回転数が上がるにつれてトルクが低下するため、スピード向上を狙う新幹線には向かなかったのでは…と思います。他の理由としては、高速スイッチング素子を使用してベクトル制御が可能になり、モーターの過渡特性が大幅に改善されたことがあげられます。
Q. バイオ分野特有のハードルはありますでしょうか?
A. 余り詳しくないのですが、事業化についてはやはり人体から血液等の検体を取り出す所に障壁があると思います。家庭等で簡便な検査をする目的であればMEMS等を用いた小型検査装置が有効ですが、病院等であれば精度やスピードが速ければ製品サイズにこだわらない部分があるので、やはり具体的な用途に依存すると思います。
Q. MEMSデバイスは高額な印象を受けましたが、例えばセンサー等で、使い捨ての用途は現実的でしょうか?
A. 前述した家庭用簡易検査装置等では使い捨てが基本になると思います。高価なセンサ部分は使い回しで、マイクロ流路部分は樹脂で使い捨ての構成であればコスト的には問題ないと思います。
Q. 電子吸引性ガスはp型半導体、電子供与性ガスはn型半導体によく吸着する理由について教えてください。電子吸引性のガスは電子が多く存在するn型半導体のほうに吸着するのではと思い、直感的に逆なのかと思いました。
A. 半導体酸化物の表面には化学吸着した酸素種(O-, O2-など)がある。n型半導体に対する酸素吸着は欠損型吸着、p型半導体に対する酸素吸着は蓄積型吸着といわれており(金属
酸化物の表面の物性について、金属表面技術、14巻、7号 274-280 (1963).参照)、電子吸引性ガスである酸素はp型半導体の酸素吸着量の方が多いと考えられている。
一方、電子供与性ガスの検知にSnO2などのn型酸化物半導体が用いられているのは、もともと酸素の吸着量が少ないのに加え、酸素の吸着が少ない結果、可燃性ガスの吸着がしやすくなるためと考えられる。『さらにガス吸着の面から考えると,酸素などの電子吸引性のガスの吸着量はn型半導体よりもp型半導体が多いとされ,一方H2,炭化水素,COなどの電子供与性のガスは,p型よりもn型半導体上で吸着が多いとされている.実際には後者の可燃性ガスは,さらに吸着酸素や格子酸素など半導体結晶の表面酸素と反応するのが通常であるが,いずれにしても空気中での使用を前提とする場合,センサー材料としては酸素吸着量が少なく,可燃性ガスの吸着(反応)が有利なn型半導体のほうが大きな電気伝導度の変化が期待できる.可燃性ガス検出用として,SnO2やZnOなどのn型半導体が多用される理由の1つもここにある.』(化学センサー、講談社サイエンティフィクp17,18よりを抜粋、参照)
コース3
Q. アセンブリによって場をつくるというコンセプトについて、一般的にタンパク質が集合とか凝集とかいう作用が起きると、炎症作用などが起こりやすいような先入観を持っているのですが、件の反応場の系では、もともと細胞内にある機能を使っているのでそういった細胞の応答は起こりにくいのでしょうか。あるいは架橋密度や含水率などを調整することでうまくコントロールできるものなのでしょうか。
A. ご指摘のとおり、アルツハイマー病をはじめ、タンパク質の凝集が原因となる疾患がいろいろ知られています。ですので、本講義の中で紹介した、タンパク質の自己集合を利用して人工オルガネラを作る、という研究においても、タンパク質集合体が細胞機能に悪影響を与えないかどうかはとても重要なポイントとなります。おそらく、私の研究室で作成したタンパク質集合体は、動物細胞が持つタンパク質を材料として使っているので、細胞機能への影響は何かしらあるだろうと考えています。言い換えると、技術開発の点では、どのような人工タンパク質を設計すれば、細胞機能に悪影響を一切与えない人工オルガネラを作れるのかという指針を確立することが重要になります。現在、私の研究室ではそのような観点で研究を進めています。
Q. 様々な色の蛍光タンパク質が開発されてきていますが、蛍光色を増やす事のメリットはなんでしょうか?例えば、複数のターゲットタンパク質を、色を変えて同時に見る事ができるという事でしょうか?
A. 蛍光タンパク質のカラーバリエーションを増やす一番のメリットは、書かれておられる通り、「複数のターゲットタンパク質を、色を変えて同時に見る事ができる」という点です。細胞の中の仕組みを解明するためには、一種類のタンパク質の挙動を追うだけでは不十分で、できるだけ多くの種類のタンパク質を同時に観察して、それらが互いにどう影響しながら細胞の中で機能するのかを明らかにする必要があります。そのようなマルチカラーイメージングを行うためにも、カラーバリエーションを増やすことは重要です。
Q. 一般的に汎用されていると説明された「GFP」含む比較的短波長の蛍光物質は、透過性の低さからvivoで使用するのが難しいですが、確かに、vitroの実験では緑系の蛍光物質が多く使われているという印象です。
しかし、後々vivo実験に進める可能性があるのであれば、もっと長波長域の蛍光物質を使用した実験を行ってほしいと思うのですが、なぜ、長波長域の蛍光物質はあまり使われていないのでしょうか?入手しにくさ(値段)などの理由からでしょうか? 普段は主にvivo実験に携わり、vitroに精通しておらず、そもそも下線部の認識が間違っていましたらご指摘いただきたく思います。
A. ご指摘の通り、in vivoへの応用の上では、より長波長(近赤外領域など)の領域に吸収・蛍光特性を持つ蛍光分子が重要です。そのような蛍光分子の開発は今まさに開発段階にあります。蛍光タンパク質に関して言うと、近赤外蛍光タンパク質というのが数年前に開発され、次第に実用的になってきました。合成蛍光色素に関しても開発が進めてられていますが、こちらは化合物の合成や物性制御の難しさもあり、実用的な近赤外蛍光色素の開発は、蛍光タンパク質に比べると遅れている印象です。
Q. 水などの低分子の回転緩和は誘電緩和かラマン散乱で検出されることが多いが、GHzの音響デバイスによってその領域の粘弾性挙動から分子の回転緩和時間を測定できないか気になりました。アレイ上に共振周波数の異なるチップを並べれば、周波数掃引も不可能では無い(製膜が大変そうですが)ように感じました。また、音響波の水中での減衰距離によっては界面の情報のみを拾っている可能性もあって、吸着水の特殊な物性などを測定できたらそれはそれで非常に面白いと感じました。可能性はありますでしょうか。
A. ご指摘のようなGHz分音(分光でなく)は可能と考えております。短いパルス超音波を励起すれば、1THz程度以下の広帯域の音響計測が可能となり、受信信号においてスペクトル解析を行うと、吸収帯が得られます。抗体と抗原間の振動や、大きなタンパク質の低周波振動など、ラマン等では得られない低周波・全体振動モードを検出することが可能になると期待しています。また、ご指摘のように、水中にも超高周波の音波を励起することができ、この場合は減衰が大きいため、ほぼ表面・界面の情報が得られることになり、ご指摘のようなアプリケーションは重要だと思います。
Q. 究極のバイオセンサーのご説明で、5umx5umサイズのチャンネルを作製されていましたが、この1つ1つのチャンネルに、異なるリガンドを付着させたい場合はどうやって行うのでしょうか?
A. 例えば、インクジェットプリンタ技術等により可能です。
Q. アルツハイマー病の原因分室としてアミロイドβの線維だけではなく、凝集中間体(オリゴマー)も注目されていると思います。本講義を通して、超音波により凝集を促進したり、逆に凝集体を乖離させたりすることが可能であることを知りました。そこで、超音波を利用しオリゴマーのみを選択的に作成することは可能でしょうか。もし可能であればオリゴマーのアッセイに非常に有用な技術となると思います。
A. 超音波の場合、より疎水性の高い線維構造を優先的に生成させてしまいますので、オリゴマーを選択的に生成することは得意ではないと考えられます。ただし、オリゴマーは、高い塩濃度と高い蛋白質濃度において、従来の高速攪拌によって容易に作製することができますため、線維に比べてむしろ作製は容易です。
Q. 特定の周波数の超音波を当てるとアルツハイマーの凝集が加速されるとのことですが、この原理は一般的な化学反応や結合反応にも適用できるのか教えて頂けないでしょうか?
A. 超音波の周波数や音圧を調整すると、様々な化学反応に影響を与える音場が作れます。必ずしもその反応を一方向に進行させることができるかどうかはわかりませんが。
アルツハイマー病やパーキンソン病などのアミロイドーシスと呼ばれる疾患の原因タンパク質においては、共通したメカニズムにより、劇的に凝集反応を加速することができます。これは通常の化学反応に与える超音波の影響を大きく上回り、特異的な現象です。
Q. 超音波を用いたタンパク質凝集加速の所で、アミロイドベータのお話をされていましたが、汎用性はどのようになっていますでしょうか?(その他のタンパク質でも検討されたことはありますでしょうか?)
A. パーキンソン病の原因のαシヌクレイン、透析アミロイドーシスのβミクログログリンなど、他のタンパク質でも同様の結果が得られます。これらアミロイドーシスと呼ばれる疾患の原因タンパク質においては、共通して、劇的に凝集反応を加速することができます。
Q. 超高感度バイオセンサーの説明において、水晶マイクロベルがピラーから軽く浮いている説明があったが、どの程度浮いているかがイメージできなかったので、改めて教えて欲しい。また、どのように抗体固定を制御されているのか教えて欲しい。
A. ピラー先端と水晶チップとの距離は、数ミクロンと考えてください。抗体の固定化については、他のバイオセンサーと同様であり、向きを外側に固定化することが有効です。この点は水晶振動子バイオセンサーに限ることではありません。例えば、抗体のFc部位(足場の部位)を特異的に結合するドメインを表面に有するバイオナノカプセルを最初に固定化し、その後に抗体をフローすると、抗体が密に外側を向いて固定化され、感度向上を達成することができます。
Q. 美容機器・痩身機器でもキャビテーションやラジオ波(高周波・音波)等で脂肪分解・細胞破壊や体内に熱を発生させ、体質改善等の施術に使用されておりますが、音圧等による圧壊・力学刺激等での発熱は最大どの位までですと、人体に害がない又最大に活かせますでしょうか。周波数や出力数等にもよるとは思いますが、例えば電磁波は周波数が大きい程、体の奥で熱を発生させることができますが、脂肪にアプローチするという点においては1MHz辺りで最も効果が高くなると聞いたことがございます。
A. 超音波はこれまで比較的人体に安全であると考えられてきました。ですので、妊婦さんのお腹の赤ちゃんのイメージングを取得することにも利用されています。音圧が低いときは、人体への影響は低いと思いますが、キャビテーションを誘発する可能性のある1MHz以下において、ある程度高い音圧となった場合には、リスクが発生することになります。
Q. 二光子吸収材料はどのような状態で利用されているのでしょうか?溶液でしょうか、固体でしょうか。講義では、二光子吸収の強度や波長を制御するために、π共役系の拡張・平面性の保持をキーワードに様々な分子を紹介頂きました。固体ではπ共役系を積層させることで、励起電子がそのまま熱失活するということが考えられるかなと思ったのですが、そこら辺の工夫は何かされているのでしょうか?ポルフィリン系では2次3次元的な構造を持った設計をされており、置換基や架橋構造を制御することで、積層間隔がコントロールされていて、熱失活が起こりづらいというようなことがあるのでしょうか?あるいは二光子吸収材料の方が一光子吸収よりもエネルギーギャップが広くなる分、励起電子の寿命が延びるというような現象が起こるのでしょうか?
A. 二光子吸収が既に利用されているものとしては、蛍光イメージングや3次元微細造形などですが、いずれも何らかの媒体に混ぜて使うことになります。生体組織のイメージングに際しては、細胞や組織を二光子吸収色素が含まれる溶液に漬けて染色することで色素が分子状で細胞内に取り込まれます。また、微細造形の反応開始剤としては液状の混合物の中の成分として溶解しています。他の場合もだいたい基材に溶解・混合された状態で使われ、二光子吸収材料だけの固体だけで使われることは少ないとは思いますが、全く無い訳ではありません。例えば、生体イメージングや光線力学療法(PDT)に用いる場合に、吸収量を増やす目的で、単分子で使う代わりにナノ粒子として使う試みがあります。この場合ナノ粒子になることで分子会合体となり、考えられているような励起状態の効率的な失活が起きることがあります。吸収後に発生した熱を利用したい場合(PDTなど)はこのことがむしろプラスに働きますが、蛍光を利用したい場合は(お考えのように)マイナスに働きます。その場合は、ご指摘の様に嵩高い置換基を導入したり、他のポリマー等と混合させてナノ粒子にすることで会合を防ぐ他、分子が積層することでむしろ蛍光収率が向上する会合有機発光 (Aggregation-Induced Emissionn, AIE) 性の分子を使うなどの試みがあります。
一光子励起、二光子励起に関わらず、励起された分子は大抵の場合、準安定状態である最低励起状態にまで落ち、そこから蛍光や反応が進行します(Kasha則)。従って、「二光子吸収材料の方が一光子吸収よりもエネルギーギャップが広くなる分、励起電子の寿命が延びる」ことは起こりません。また、二光子吸収材料の方が一光子吸収よりもエネルギーギャップが広くなるかどうかは、どの遷移を考えるか次第になり、二光子吸収で遷移する励起状態よりも上の準位の励起状態へ一光子吸収で遷移させることも一般に不可能という訳ではありません。
Q. ジラジカル性の化合物を利用した二光子吸収の研究は古くからなされていたものなのでしょうか?それとも鎌田先生のグループが初めて行われたものなのでしょうか?また、こうしたラジカル分子を利用する上ではやはり安定性が問題となるのでしょうか?
A. 一重項中間ジラジカル性を持つ分子種が強い三次非線形光学効果を示すことを最初に理論的に指摘したのは共同研究者の阪大基礎工学学部の中野先生で(J. Phys. Chem. A, 2005, 109, 885)、そのことを三次非線形光学効果の一種である二光子吸収の実測によって私が初めて示しました(Angew. Chem. Int. Ed., 2007, 46, 3544)。
総説等では、理論についてはM. Nakano, “Excitation Energies and Properties of Open-Shell Sinnnglet Molecules – Applications to a New Class of molecules for Nonlinear Optics and Singlet Fission”, Speinger, New York, 2014、があります。実測については、「高効率二光子吸収材料の開発と応用」渡辺敏行監修、CMC出版2011のp37-38、もしくは、光化学 (ISSN: 0913-4689), 2013, 44, 130–137にそれぞれ1ページ少々ですが、簡単にまとめたものがあります。
Q. メタマテリアルについて、作製するにも技術やノウハウが必要な印象を持った。現時点で顕在化している技術的課題と解決方法の展望があれば教えて欲しい。
A. 光学的メタマテリアル作製の技術的課題は、高い伝導性を持った金属構造を正確に作ることと言うことができます。直接描画法では、生成した金属に粒界が出来てしまい、そのため電気伝導度が低下して特性が出にくくなります。これに対して、形状を形成するのは二光子吸収による3次元微細造形で行い、それに無電解めっきによって金属層を形成するアプローチがあります。ただ、この場合は金属の有り、無しの細かな構造が作りにくい点が欠点です。加えて特性を向上させるために、加工精度を数十nm程度にまで上げることも望まれており、それもなかなか解決の難しい問題です。
Q. OCTの応用についてご質問させていただきたいと思います。例えば超音波診断装置では撮像だけではなく、血流やせん断波によるドップラー効果により脈動や硬さの定量評価に用いられておりますが、OCTでもこのように生体の定量評価に用いられている例はございますでしょうか。素人考えでは、例えば体液と脂肪組織では屈折率が異なるためこれらの区別はつくのかなと考えております。以上よろしくお願いいたします。
A. OCTが広く普及している眼下の分野では、眼底の血流をドップラー信号としてイメージするOCTアンギオグラフィー(OCTA)が浸透しつつあります。これまでの造影剤を使用する蛍光眼底造影ではなく造影剤を使用しない非侵襲な検査として期待されています。また研究開発の段階ですが、動脈硬化性プラークの組織の機械的特性をOCTでイメージする手法として、光コヒーレンスエラストグラフィー(OCE)が提案されています。超音波のエラストグラフィーより分解能が高い像ですが、イメージ深度が限られています。脂肪組織の識別にはOCTは有力であると思われます。画像的には脂肪部分の信号が抜けてイメージされると思われます。生体表面から脂肪組織の層までの深さは浅い所で5mm以上あると思いますので、OCTの到達深度ではイメージは困難だと考えられます。
例えば、以下の参考文献があります。
OCTAの文献:
Cole ED, et al, “The definition, rationale, and effects of thresholding in OCT angiography” Ophthalmol Retina. 2017; 1: 435-447.
OCEの文献:
Qi W, et al, “Phase-resolved acoustic radiation force optical coherence elastography”
J. Biomed. Opt. 2012; 17: 110505.
Q. レーザーアブレーションによる微量元素の検出について、講義ではCaを紹介して下さった。その他に検出可能な微量元素にはどのようなものがあるのでしょうか。また、測定時間や検出感度はどの程度か教えて頂けますでしょうか。
A. Caの他には微量元素としてNaやKがありますが、本装置ではNaが検知できます。(資料1-27)ではC+がありますがこれは毛髪の主成分のケラチン由来です。生体組織の成分ではCaの蛍光強度が強く現れます。
本測定法はパルス幅10nsのQスイッチのパルスレーザーを照射して検出するため、検出時間はパルス照射から~500nsです。感度に関してですが、光速ゲートイメージインテンシファイアで分光イメージを~106倍に増強しています。
Q. STMによるグラフェンの直接観察に関してですが、グラフェンに異元素をドーピング(Nや最近ではBもあるかと思います)した場合ではSTMでドーピングの様子を観察できるものなのでしょうか?STMはトンネル電流を観測するとのことで、電子雲の情報が反映されるのかなと思ったのですが、ドーピングした場合には未ドープグラフェンと比べて明暗の変化があるのか興味を持ちました。
A. おたずねのようにBやNをドープしたグラフェンについて、STMのトンネル電流(電流密度)に基づいてこれらの元素の位置を特定しようという研究や、ドーピングの割合や規則性と電流―電圧特性の違いをSTMを用いて調べる研究が行われています。また、電流―電圧特性に関する理論研究も盛んに行われており、観測結果が本当にドーピングによるものかが議論されている段階と言っていいのではないかと思います。
Q. 個人的にはFeringaの分子モーターの研究に興味があり、いくつか文献を読んだことがあるのですが、あのような自己駆動型分子の利用展開はどのようなものをお考えでしょうか? Feringaの研究ではナノカー以外にも確かコレステリック液晶への利用を報告していたかと思います。配向性の制御が出来そうというのは確かにイメージが出来ますが、分子反応の過程でモーターを駆動させて、分子を移動させつつ連続的な反応をするというような、分子反応への利用というのは可能なのでしょうか?
A. ひとつの方向は液晶にも関係しますが、分子の動きの制御と物質の移動や輸送のようなマクロな現象のリンクかと思います。今後は比較的小分子を用いて実証した原理を、より複雑な中分子、高分子に展開するのではないかと予想しています。もう一つの方向としては、おたずねにあるような生態系にみられる多段階触媒能を担うような分子機械への展開でしょう。しかし、そのような過程を達成するには従来の熱力学的平衡系では困難であり、それを打破すべく新たな非平衡散逸系の分子集合(dissipative selfassembly (DSA))の研究がオランダのグループを中心に始まっています。まだまだ道遠しの感がありますが、超分子化学は確実に複雑系にシフトしていると思います。以下は余談です。ご存知かもしれませんが、Feringaを含むオランダの有機化学のグループは何十年も以前から非常にユニークな(深く考えられた)分子化学に関する研究を展開しており、その伝統が新しい分子科学を創出するパワーの根源にあると思っています。
Q. がんの原因は遺伝子変異との事でしたが、なぜ遺伝子変異はそもそも起こるのでしょうか?正常な細胞分裂を繰り 返すうちに、歳を重ねるにつれて、コピーに失敗する(遺伝子変異が起こった細胞が生まれる)確率が上がる、さらには歳を取れば免疫力も落ちて、がん細胞を倒しきれなくなって腫瘍となっていく、というのが一般的なのでしょうか?一方で、若くしてがんになる方もいれば、歳をめされてもがんにならない方もいるかと思われます。この辺りの違いを教えてください。
A. ご質問のとおり、コピーの失敗と免疫の低下が大きな原因です。遺伝子変異は遺伝子が複製される時のエラーです。細胞が分裂する時、文章をコピーペーストするように、遺伝子はコピーされて新しい細胞に渡されます。しかし、コピーする時に時々エラーが起こります。一度エラーが起こっても、そのエラーを見つけて元に戻す修復機能が細胞には備わっていますが、その機構が加齢とともに低下することがあります。その時、エラーを修復できずに遺伝子変異が起こります。遺伝子変異は、それが細胞の機能に影響を及ぼさない時には問題になりませんが、まれに機能に影響を及ぼす時があります。たとえばシグナルがないのにシグナルがONになったと誤認して細胞を増殖させたりすることがあります。これが腫瘍の原因です。つまり、加齢とともに遺伝子修復機能が低下して遺伝子変異が起こってしまうことで腫瘍が発生します。また、免疫も腫瘍の発生と関連します。遺伝子変異の結果、もともと自分の持っていた細胞とかけ離れた細胞ができてしまうことがあります。そのようなものは免疫によって排除されるようになっています。ところが、排除すべき細胞が免疫力を弱める因子を分泌したり、加齢によって免疫によって排除する力が弱まってしまうことで、遺伝子変異をきたした細胞を排除できず、生き残らせてしまい、その結果、腫瘍になるということもあります。さて、若い人の腫瘍です。これは家系的に遺伝子修復酵素に何らかの変異がある人がいます。そのような場合は、若い時から遺伝子修復がうまくできずに遺伝子変異が起こりやすくなり、腫瘍になる確率があがってしまうことになります。もっと若い時、たとえば生後すぐに腫瘍になってしまうこともあります。この場合は、遺伝子発現そのものを調節しているクロマチン構造を制御する因子が、何らかの原因で機能できなくなり、その結果、正常な細胞、つまり正常に遺伝子発現を制御できている細胞になることができず、非常に未熟な腫瘍細胞になってしまうこともあります。また、いつまでも腫瘍にならないような人もいます。これはまだまだ謎です。一般には免疫力を高めるような状態、たとえばストレスを感じないようなマインドを身につけた人や、運動習慣を身につけている人などが腫瘍になりにくいと言われています。動物にはハダカデバネズミという動物があり、このハダカデバネズミは腫瘍にならないそうです。なぜ腫瘍にならないかを精力的に調べている研究グループもあります。面白いことに、このハダカデバネズミは社会性をもって、群れを作って生活するそうです。それが関係するのかどうかはわかりませんが、まだまだ謎の多いのがヒトのからだです。
Q. 病理における最近の教育現場において、海外も含めてAIはどのように活用され始めているのでしょうか。AIに頼ることにより、生の切片を見る力が低下する懸念されるため、医学部の実習ではAIを主体とした活用ではなく、生の切片を見ながら、経験値を増やすことに重きが置かれているのでしょうか。
A. 病理診断の現場にAIを入れて、診断補助として利用する動きはありますが、病理教育にAIを活用するということはあまりされていません。他の教育と同じように、たとえば病理専門医をめざす若手に組織をみせて、その診断を答えさえ、間違いやすい傾向をAIで導き出して、教育効果を高めるということは考えられます。あくまでも医学部の実習は、生の切片をみて、学生の頭の中にそのパターンを叩き込むということに重点が置かれています。話は少し脱線しますが、イノベーション教育を長年している人と先日話していましたら、最近の学生の傾向として、すぐにスマホで調べて自分の頭で覚えようとしないということがあるそうです。たしかに学生をみていたらその傾向はあります。昔のように詰め込み教育で暗記暗記を繰り返さなくても、すぐにPCやスマホで検索して簡単に知識を得ることができます。ところが、イノベーションというのは、自分の頭の中にある一見全く関係のない知識の断片が、ある日突然繋がることが端緒になることが多いとのことです。自分の頭の中に知識をいっぱい入れておかないと、繋がる元がない状態なので、イノベーションなんて起こらないのではないか、と危惧されておられました。やはり生に触れながら、経験値を増やすことで、頭の中に定着できる知識を増やすことが大切だと思います。
Q. PEG修飾したAdをベクターとして用いて遺伝子導入した場合、PEGはどうなるのですか?代謝されて最終的に水と二酸化炭素まで分解されて細胞外に排出されるから問題ないのでしょうか?
A. 本件について検討しておりませんので、明確な答えは持ち合わせておりません。ただ、PEGは、体内では分解されないと思います。それとPEG修飾インターフェロンが既に医薬品化されておりますので、PEGの動態も検討されていると思います。ただ、申し訳ありませんが私は知りません。それで、体内に入ったPEG修飾AdベクターのPEGの動態は、PEG修飾インターフェロンのPEGの動態とよく似た動態を示すと思います。
Q. ゲノム編集技術を医療に応用する場合、オフターゲットや意図しない領域への挿入される率を1%よりもさらに下げる必要があるとおっしゃっていました。現時点でそれらを防ぐ技術戦略にはどのようなものがあるか教えて頂けないでしょうか。率を下げるにはある程度、限界があるため、疾患領域や患者特性の把握も重要とおっしゃっていましたが、今の現状を教えてください
A. オフターゲットを減らす試み:完全に切断しないNickaseを使ったり、認識配列の長いCasやTALENを使うなどの工夫がされています。疾患領域など:in vivoでゲノム編集するのではなく、ex vivoでゲノム編集し、オフターゲット問題がないことを確認してからin vivoに戻す方法。またガン細胞を直接ゲノム編集するのではなく、腫瘍標的T細胞をゲノム編集して付加価値を持たせることで対腫瘍攻撃力を高めるなどでしょうか。
Q. ヒトiPS細胞で浮遊培養が可能なメカニズムを教えていただけますでしょうか。ヒトipS細胞は接着細胞との認識があり、浮遊培養は不可と思っていたためです。大量培養法の一つとして、中空糸を用いた系も報告されていますが、中空糸培養系の課題などがございましたら、教えていただけますでしょうか。
A. iPS細胞の場合は,接触阻害が起こりにくく,集塊形成しても増殖し続けます.(もちろん集塊が大きくなると最終的には接触阻害が起こり,増殖が抑制されます)中空糸培養系は,高密度で培養することについては問題ないですが,大量培養となると,タンク型のほうがスケールアップしやすいのかなと思っております.
Q. エクソソームと似た粒子サイズで細胞外に放出される小胞体(微小小胞体)があるとおっしゃっていました。それらを区別にして解析することは重要と考えられますが、エクソソームを精製する過程で微小小胞体の影響(混入)も少なからず起きているのか、無視できるレベルでしょうか。もし、微小小胞体が混入している可能性がある場合、どのような方法で混入は少ないと示すことができるのか教えて頂けますでしょうか。
A. 脂質2重膜に覆われた細胞外微粒子としては、細胞内から産生されるエクソソーム(sEV)の他にも、マイクロベシクルやアポトティックボディーといったものがあります。サイズはエクソソームより大きくなります。これらを完全に分離することは困難ですが、エクソソームの精製に主眼を置くのであれば、遠心条件で大きな粒子を除去した上で、PSキット(Fuji)が有効です。収率は低下しますが、きれいになります。混入のチェックは通常、ナノサイトを用いた粒子径の解析で行います。
Q. エクソソーム特異的抗体で標識すれば、フローサイトメーターでも計測できるのかなと思ったのですが、難しいのでしょうか。難しい場合はどういった課題があるのでしょうか。また、世界の一部研究者が、エクソソームの単離が技術的に難しいと言っているようですが、先生の方法が問題ないと思わない理由はあるのでしょうか。ただ、知らないだけなのか、何か理由があるのか気になり、質問致しました。
A. もしかすると特殊なフローサイトが開発されているかもしれませんが、大学に設置されているようなFACS Caliber、AliaなどのフローサイトではFSCの限界を超えて小さいため、測定は困難です。マイクロベシクル(400-500nm)が限界だと認識しています。私の方法は、最終的にエクソソームマーカーのタンパク量を測定しているため、定量という目的は達しています。しかしながら、精製は不十分なので、同時に含まれる分子の同定などには不向きです。現状、精製を目的にするのであれば、収率や精製過程での偏り(均一にどのようなエクソソームも回収しているとは限らない)は諦めるほかなく、また定量を目的にすれば、不純物も多いため、成分分析には向かないことになります。その中で比較的良い方法はPSキットの方法と思われます。これは表面のホスファチジルセリンを目印にしているため、凝集タンパクなどの不純物からはきれいにできます。
Q. 自分で調べるべきなのですが、エクソソームの表面マーカーは細胞に関わらず同一なのでしょうか。それとも異なるのでしょうか。
A. 現在までのところ、よくわかりません。予想としては、脂質ラフトの構成膜タンパクが主体となるため、かなり細胞に固有のものとなると思いますし、細胞の状態も強く反映されると思います。現状、技術的に難しいです。
Q. 表面増強ラマンについて SERS immunoassayでは、SERS tagsと共に抗体を固定して抗原を検出する原理と思いますが、ELISAと比べて検出感度、測定時間に差はあるのでしょうか。また、SERS粒子(金、銀、白金ナノ粒子)に抗体が固定されたものが販売されているのか、またユーザーが自ら抗体を固定する場合はを上手くできるのでしょうか(抗体が横向きにならず、活性部位を立てた状態に固定できるのでしょうか)。
A. 一般的なELISAと比較して、検出感度は高く、前処理を含まない測定時間は同程度のようです。SERS粒子に抗体が固定されたものは、販売されていません。抗体修飾前段階のSERS粒子ですと、Nanocs(New York)が提供しています。ユーザーが、SERS粒子を購入して抗体修飾する場合は、試行錯誤が必要なのが現状です。
Q. Label-free SERSでは、どのような原理で対象物質を吸着させるのでしょうか。吸着だとナノ粒子との静電作用、分子間力などが考えられ、特異性は高くないかと思いました。特異的な結合を期待させる場合はimmunoassayを選択するのでしょうか。
A. Label-free SERSでは、例えば、ナノスケールの金電極の近傍を通過する生体分子を計測するものがあります。この場合は、生体分子を金電極近傍に通過させるナノ構造を利用します。高い特異性を得るためには、ターゲット分子を認識する分子でナノ粒子表面を修飾します。
Q. SERS粒子のサイズや形状に規定はあるのでしょうか。形状はより尖ったものが増強させやすいと講義で説明されていましたが、イラストだと球形だったのと、ナノマテリアルはサイズに多様性があると聞いているので、伺いました。
A. 球と球の最近接部分は、非常に尖った形状と見なすことができます。SERSが得られやすいナノ粒子のサイズや形状があります。ナノ粒子の場合ですと、粒径は100nm以下が目安になります。
Q. SERSの1細胞計測について、配布資料(ファイルNo.2)のP.31におけるデータは金や銀ナノ粒子をコートしたシャーレ上で計測されているのでしょうか。細胞評価への活用に興味があり、どのように評価されているのか知りたくて伺いました。
A. これは、Chem. Cent. J. 2013, 7, 1–5.が原著論文になります。この実験では、35nmの金ナノ粒子と細胞をインキュベーションしています。
Q. SERSのセンシング構造について、配布資料(ファイルNo.2)のP.32において、より尖った構造を作成するために、先端に球形のナノ粒子を固定しているかと思います。各ロッド間隔にベストはあるのでしょうか。細胞接着を促進させるためにこのセンシング上に足場材料(コラーゲン、フィブロネクチンなど)をコートしても、細胞評価はできるのでしょうか。高感度化するためのセンシング基板の作成、足場材料はSERSの邪魔にならないか知りたく、伺いました。
A. ロッドの頂点部分にSERS粒子を作製するため、SERS粒子の直径、ロッド直径、ロッド間隔の3つで最適化されます。例えば、配布資料の構造では、金ナノ粒子径140nm、ロッド直径120nm、ロッドピッチ330nmが用いられています。SERS基板を用いた細胞評価においては、足場材料を含む、材料と構造の最適化が必要です。現在、入手可能なSERS基板として、Silmeco、堀場製作所、Ocean Opticsが提供しています。
Q. SERSを細胞評価に活用したい場合の現在の課題がありましたら、教えていただけますでしょうか。
A. 課題は、SERS基板に多くがあります。SERS基板上に、自己組織化膜を、均一に、高い再現性で、広い面積で、安定に、かつ低コストで作製することが課題になります。
Q. BVSについて
消えて無くなるコンセプトである生分解性樹脂(ポリ乳酸ステント)は、既存品の臨床成績を上回ることができなかったため、普及しなかった説明がありました。最近は、マグネシウム合金のような生分解性金属を用いたステントも開発が目指されています。生分解するが故に耐久性を維持する基礎研究に加えて、既存品を上回る臨床成績を出すためにはまだまだハードルが高いと思われますが、医療現場からは生分解性ステント(樹脂、金属)に対してどの程度期待があるのでしょうか。
A. 臨床医の視点では、BVSに大きな期待が持たれた時期は過ぎていると思います。金属ステントがかなり進化し、コストも下がりましたので、これを上回るメリットを打ち出せるかどうかがカギになると思います。血管以外でもステントは使用されます.
Q. 医療機器開発におけるin vitro評価系の役割
医療機器の開発では実験動物(ブタ、イヌ、ヒツジなど)を用いた評価が多く実施されています。先生が開発されたシミュレーターも実験動物の使用削減に繋がる技術ですが、シミュレーターで使用される血管モデルに細胞を接着させたモデルや再生医療技術を用いたモデル構築は医療機器開発の現場で求められているのでしょうか。講義の中でカテーテル手技により血管を傷つける話があり、挿入時に血管の細胞がどの程度を損傷するかが分かると嬉しいのでしょうか。血管モデルに細胞を播種したり、再生医療技術で血管を構築すること自体が大変で費用対効果が合わないかもしれませんが、興味があり伺いました。また、動物実験の前にこういうin vitroの評価系があると良かったという意見もございましたら、教えて頂けますでしょうか。
A. 私見になりますが、現時点では生物学的評価はやはり動物試験に軍配が上がると思っております。私どもはそれぞれの特性を生かし、組み合わせる形で使用しております。今後技術の進化により、動物試験に限りなく近いシミュレーションができるようになれば、仰られる可能性もあるのではないかと存じます。
Q. 医療の効率化について
医療のデジタル化が進展し、患者さんの日々のバイタルデータを医師などの医療従事者が確認し、最適な医療(予防、治療、ケア)を提供する時代が来る一方で、医師が本来すべき業務に時間を割けていない現実がある話もありました。オンライン診療もコロナで普及しかけましたが、十分とは言えないと思います。医療の効率化を図るうえで現時点での最大の課題は何になるのでしょうか。
A. 無駄な部分とそうでない部分をどう整理するかということになるかと思います。効率化を優先しますと、都市部とそれ以外の地域の格差もさらに拡大する可能性があります。診療報酬の観点からの議論も必要かと思われます。
Q. バルーン法ですと血管が再び狭くなることが課題とのことでしたが、抗がん剤等の薬剤を利用すると改善するとのことで、再発のメカニズムとしては血管をこじ開けたことによる血管のダメージとそれによる炎症反応などで細胞が増殖してしまうことが主だと考えて差し支えないでしょうか?(あるいは症例によるのでしょうか。)また、抗がん剤の使用によって、元々いる血管内皮細胞等が死滅して悪化することはないのでしょうか?活発に増殖していない細胞であるために、そのような影響はないということでしょうか?聞き逃していたら申し訳ないのですが、お教えいただけると有難く思います。
A. 過去に抗がん剤を塗布した冠動脈ステントがありましたが、成績はあまりよくありませんでした。現在の抗がん剤を塗布したバルーンカテーテルは現時点で大きな問題は起こっていませんが、例えば今後10年以上の経過のデータなどで変わってくる可能性は否定できないと思います。
Q. Drug-caoted Balloonについてですが、バルーン表面には生体適合性の良いコーティング(ポリマーのような?)をしているのでしょうか?
A. 日本で使用されているものは尿素がコーティングされています。
コース4
Q. TEMでは中間レンズを制御することで電子回折パターンまたは実像が得られ、実像観察時に対物絞りを制御することで明視野像や暗視野像が得られるという理解で正しいでしょうか?
A. 仰る通り、中間レンズの物面を対物レンズが作り出す後焦点面になるようにレンズ電流を調整すれば後焦点面の情報(電子回折パターン)が下に投影されます。一方、中間レンズの物面を対物レンズが作り出す像面になるようにレンズ電流を調整すれば像面の情報(実像)が下に投影されます。大切なことは、中間レンズにどのようなレンズ電流が流れていようとも、実像観察時にも対物レンズの後焦点面には電子回折パターンが常にできているし、電子回折パターンを投影していても常に対物レンズの焦点面には実像が映し出されているということです。
透過波だけで結像した明視野を見たければ、透過波だけを通すような穴あき板(対物絞り)を透過波が集光している後焦点面に挿入すれば良いのですが、その際に、実像を見ていては正しい位置に対物絞りが挿入されているかわからないので、対物絞りを挿入するために一度中間レンズを切り替え、電子回折パターンを映し出して正しく対物絞りを入れたかを確認したうえで、再度実像を映し出せば、透過波だけで結像した明視野像が得られます。また、同じ要領で、特定の回折波だけを通す対物絞りを挿入し、再度実像を映し出せば、その回折波のみで結像した暗視野像(軸外暗視野)が得られます。
この手法で、狙った回折波の散乱角が大きい(面間隔が小さい)場合、回折波の向きと光軸(レンズの中心を通る軸)とのずれが大きくなるために、暗視野像として結像したときにボケが大きくなり正しく結像されません。こういった場合、電子ビームの光軸を回折角に応じて傾斜し調整して、狙った回折波が光軸の中心に来るようにして、その光軸の中心(明視野の場合の透過波と同じ位置)に対物絞りを入れて結像した暗視野を軸上暗視野像といいます。
Q. SiC積層欠陥の電子回折の実例で逆空間で考えて原子一層分の積層欠陥がストリークを起こすこととラウエ関数が単位胞の数が少ないほど広がりを持つ点との繋がりは理解できたのですが原子一層分からの回折が起きるという点をどう解釈したらよいでしょうか。原子一層分は回折を起こす結晶とは呼び難いものかと考えていたのですが、2次元的に広がった原子各々からの構造因子の重ね合わせと考えるべきでしょうか。または積層欠陥が起きている原子層以外の母材の結晶からの回折に由来するのでしょうか。
A. 察するに、「原子一層分からの回折が起きる」この現象を、ブラッグ回折のいわゆる 2dsin= を導出するモデルに基づいてお考えになったのではないでしょうか。そこで一層だとそもそも面間隔のdの概念が出ないことに疑問を持たれたのではないかと思います。
ブラッグ回折のモデルは結晶からの回折現象の一部分の特別な例だけを切り取ったモデルなので、そのモデルを超えた展開ができません。たとえば、今回のような結晶の次元が低次元となった場合や、ブラッグ条件を厳密に満たしていない場合の散乱強度とか。直感的に回折というものが理解しやすいので最初の取り組みとしては良いのですが、ある程度理解が進めば、一度勇気をもって、より原点からの考え方、「1.点電荷からの散乱→2.複数電荷が集まったところからの散乱(原子散乱因子)→3.一次元原子鎖からの散乱(ラウエ関数の概念)→4.二次元平面、三次元空間への展開(逆格子の概念)→5.周期性のモジュレーション(結晶構造因子)」へ回帰する必要があります。ここで、1,2番目までは全方位的な散乱ですが、3番目(一次元原子鎖)からは全体としての散乱強度に異方性が生じてきます。この状態を回折と呼び、散乱のカテゴリーの中の特異例として区別していると考えるとわかりよいと思います。
例えばx方向の一次元原子鎖からの散乱強度は、ラウエ関数をx軸にぐるぐると回転したときの軌跡のx軸に垂直な無限平面の集合になります。それをy方向にも二次元に拡張すると、y軸方向のラウエ関数を回したものはもちろんy軸に垂直な無限平面になりますので、それらの共通部分は、2つの平面の交差する無限の長さの軸(z軸に平行な線)となります。さらにz方向にも三次元的に拡張すると、先ほどのz軸に平行な無限長さの線とz軸に垂直な無限平面との交差する部分は、点の集合となります。これが三次元逆格子です。
では、事例のようなSiCの原子一層は二次元平面で、上の例では考えると観察方向のベクトルは、x,y成分はともに任意で、zだけが0状態ですので、z軸に平行な線状の散乱強度はx,yがどんな方向でも線として投影されます。一方、母材の結晶は三次元に周期性がありますので、散乱強度は点としてすなわち回折斑点として現れます。
Q. 電顕-EDSと蛍光X線分析法との違い。蛍光X線分析法は、電子線の代わりにX線を照射すること以外はEDSと同じ手法なのでしょうか?両手法では得意・不得意などの違いはあるのでしょうか?
A. 電顕でのEDS法と蛍光X線分析法(以下XRF)とでは,分析の原理や検出器の基本構造など,基本的にはやっていることは同じです。しかし,(1)電子線励起かX線励起か,ということのほかに(2)電子顕微鏡と一緒に使うかそうでないか,による違いもあります。主な違いを以下に挙げます。
(1)電子線励起かX線励起かということによる違い。
i) 電子線の方がX線の場合より物質との相互作用が大きいという特徴があります。そのためX線スペクトルには,電子線の方が制動放射によるバックグラウンドが大きく出ます。微量元素の定量分析をする場合には,バックグラウンドが低いXRFの方がP/B(ピーク-バックグラウンド比)が大きくなるため精度としては有利になります。
ii) X線発生領域が大きいXRFの方がトータルとしてのX線のカウント数が大きくなるので,統計誤差も少なく,より高精度の定量分析が可能になります。
iii) X線発生の方法だけでなく,検出の際の雰囲気や試料形状等の測定条件も両者で異なるため,定量分析の方法は違ってきます。XRFの場合は検量線法,ファンダメンタルパラメータ(FP)法と呼ばれる方法で行い,SEMはZAF法,φ(ρz)法,TEMは薄膜近似(Cliff-Rorimer)法,ζ因子法を用います。
(2)電子顕微鏡で使うかそうでないか,による違い。
i) 電子顕微鏡は局所領域,XRFはマクロな領域の分析に使います。これは「分析方法の違い」ではなく目的の違いですが,そもそも電子顕微鏡は顕微鏡として使うため,電顕のEDSも局所領域分析に用いる目的で発展してきました。
ii) i)を分析の立場から言うと,電子顕微鏡ではXRFよりX線発生領域が小さいため,分析領域および空間分解能が小さい分析が可能です((1)-i)とも関連)。逆にXRFでは広い領域や深い部分の分析が可能です。SEMでは加速電圧が低く電子線侵入深さが小さいこと,TEMでは試料が薄膜なので電子線の広がりが小さいことに起因します。
iii) 電子顕微鏡で使う場合は,試料は真空中にあります。一般的なX線励起の蛍光X線分析(XRF)の場合は大気中です。これは検出器の窓材が電子顕微鏡の場合の方が薄くて良いことにつながります(窓なしの場合もあります),そのため付随的に軽元素の検出感度が上がるという特徴があります。
どちらの手法も、同じ物理現象を用いる分析法ですが,利用する立場としては目的によって使い分ける別物で,それぞれの手法特有の知識と技術が必要なものと思います。なお,「中井 泉[編集],蛍光X線分析の実際 第2版,朝倉書店,(2016), ISBN 978-4-254-14103-0」は両者を詳細に扱っている数少ない良書です。参考にしてください。
Q. STEM-EDSで照射電流はどこまで増やせるか?STEMでEDSのカウントを稼ぐための手段に照射電流増があるとのことですが、先日装置メーカーの方からEDSの際は1nAが良いと言われたのですが、先生はどの程度まで電流を上げて良いとお考えでしょうか。また、EDSにとって照射電流を上げすぎることのデメリットはありますでしょうか。
A. 分析の目的や,用いる装置や手法によって,最適な測定条件(電流値を含む)は変わってきます。そのため電流値はいくつが良いとは決められませんが、1nA推奨の装置メーカーの方のご判断は恐らく,「電流を上げすぎると試料にダメージが入ったりデッドタイムが上がりすぎたりする可能性がある。それらのマイナス面とカウント数とのバランスを考えると,1nA程度が最も効率が高い測定ができるケースが多い」ということだと思います(ただ,1nAというのはそれ自体かなり大きな値ではあります)。
以下,STEMでEDS測定の場合に限った説明をします。
STEMの場合は,試料が薄くX線発生体積が小さいこと,加速電圧が高くX線が出にくいこと,などから,高精度な分析に必要な十分なカウント数を確保することが難しいことが一般的です。そのため,照射電流を上げることがカウント増の対策の一つとしてあるというお話をしました。ただ,ご質問のように,照射電流を上げすぎることのデメリットもあります。
まず,EDS測定以外の一般的な話として,照射電流値の増加はプローブ径を太くすることによることが多いので,その際は空間分解能が低下します。また,試料へのダメージも大きくなります。
そのことを別として,照射電流を上げすぎたときのEDS測定への直接的な影響として,デッドタイムの問題が生じます。試料から発生するX線が増え,検出系のアナライザに入力するカウントが増えると,デッドタイムも増加します。デッドタイムの最適値の目安は40%程度ですが,それ以上になるとエネルギー分解能の低下やサムピークの出現などの留意点が生じます。それらが許容できる目的の測定の場合(例えばシンプルな組成の試料のEDSカウントマップなど)では,最大の出力が得られる60%が上限です。デッドタイムは検出器のプロセスタイム(時定数)τによって変わりますが,必要なエネルギー分解能を確保できる最大のτでデッドタイムが60%になる状態が意味のある最大の電流値となります。それ以上電流を上げるとデッドタイムが増えすぎてかえって検出効率が下がり測定時間が増えます。
通常のEDS測定では,デッドタイムが40%程度になる条件がアーティファクトも出ず効率も高い測定になります(試料ダメージは別です)。測定条件としては,対象とする試料で,必要とする空間分解能・エネルギー分解能が得られる範囲内で,デッドタイム40%程度になるところまで電流値を上げていくような設定をします。試料や目的によって最適値は異なります。ですので,1nAが良いというのは言い過ぎと思いますが,「お使いの装置・試料では多くの場合はその程度」という目安として言われたのかもしれません。
Q. ELNESにおけるEnergy Lossと、XPSやHAXPESにおけるBinding Energyは同じものなのでしょうか?
A. EELSとXPSを比較したときに異なる点は、励起された電子の終状態にあります。XPSでは励起された電子は試料から放出されます。そのイオン化された電子の運動エネルギーを測定することにより、内殻準位の束縛エネルギーはフェルミ準位からの値として求められます。それに対して、EELSでは、吸収端近傍に現れる構造の終状態は、非占有伝導バンドになります。
したがって、スペクトルの立ち上がりに相当する閾エネルギーは、内殻準位から伝導バンドの底のエネルギー差になりますので、絶縁体の場合は、XPSのようにフェルミ準位から測定した束縛エネルギーとは若干異なります。また、EELSでは内殻電子が励起された場合に形成される内殻ホールの効果も閾エネルギーに影響する場合があります。
Q. 延伸のその場観察の所で、亀裂の進展が凝集体を迂回するように進行することが確認されたとのことでしたが、材料設計の段階で凝集体の量やサイズをコントロールすることは可能なのでしょうか?そもそもこのような凝集体はどのようにして出来るものなのでしょうか?
A. ゴム系の複合材で凝集体の量やサイズが制御できるかと言うことですが、量については(ナノフィラーの)仕込み量を変えることで調整することができます。凝集体の大きさについては、このゴム系複合材を作る際に行われる混練(練り込み)の度合いによって変化すると思われます。凝集体がどのようにできるかは、練り過程での複雑な力場によるので、簡単ではありませんが、練り速度、試料滞留時間、スクリューの形状と数、等によって変化することは知られています。ゴム系複合材料の作り方については、講演者は非専門なので、詳細についてはプロセッシングの専門家に問い合わせられるのが良いと思います
Q. 全固体電池のEELSスペクトル分離演算では、試料厚さの影響はどの程度ありますでしょうか。試料の厚さは都度測られていますか。
A. スペクトル分離演算は、各場所からのスペクトルが構成される純成分の一次結合であらわされるという過程に基づいています。そのため試料が厚く、多重ロスのような非線形効果が強いときは注意する必要があります。この時は多重散乱の効果が顕著ではないスペクトル領域(主にプラズモンロスによる多重ロスが問題になるので)であるスペクトル開始からプラズモンエネルギー以下の領域に解析範囲を限定する、または(今回は試料厚さというより界面で連続的に変化する場合に対する対策としてですが)成分数を通常より多くとって、単純に試料厚さ効果による変化と解釈できる(つまり高エネルギー側の強度のみが異なる)ものを同じ成分としてグルーピングしてしまう、などの方策があります。経験的に試料厚さが0..5λ(λ:非弾性散乱電子平均自由行程)以下なら非線形効果はあまり問題になりません。いずれにしてもスペクトル分解法を正しく適用するためには使用するアルゴリズムやデータの特性、ノイズの種類、SNRによって細かい調整が必要です。固体電池の例に関しては論文が出版されましたので以下からアクセスできます。詳細はこれをご参照ください。
https://doi.org/10.1021/acsaem.1c02512 [doi.org]
Q. ビームロッキングでICPデータを取得する際、ビームを絞らず、試料は厚くするのは、情報量を増やすためでしょうか。講義でお話しされたかと思いますが、再度、目安のビーム径、試料厚さを教えていただけないでしょうか。
A. ビーム径より入射電子の平行性(収束半角< ~3 mrad)が重要です。ビーム平行性が入射方向による回折条件、言い換えると角度分解能を保証します。ただしあまりビーム径を小さくすると情報を与える領域が小さくなる(各回折条件を満たす物質量が減る)ので、S/Nが悪くなります。我々の現時点での設定で、ビーム径30nmφまで情報量を落とさずに平行照射ができるようになっています。これは使っているマシンに依りますが、たとえできても数nmまで小さくすると解析精度が落ちると思います。試料厚さは、十分なチャネリング効果が起こる、言い換えるとブロッホ状態が良く定義される厚さ以上です。試料構成元素の原子量に依りますが、50nm以上、典型的に100-200nm程度が適当です。TEM試料であれば厚すぎるということは通常ありません。一つの目安は電子チャネリング図形(ECP)がきれいな回折線で構成されていれば質の良いICPが取得できます。
コース5
Q. 除去したレジストをNMR分析する事はできるのでしょうか?高濃度のイオン注入によりレジストに炭化やπ共役化が起こるとのことでしたが、私は注入イオンがどう作用したのか、どう残存するのかについて非常に関心を持ちます。もしNMR分析が可能なら、多核のNMR等の測定によりリンやホウ素の結合状態をより理解できると思うのですが、いかがでしょうか。
A. イオン注入されたレジストは、炭化やπ共役化が起こっており、溶解させる溶媒がないためNMR測定は難しかったです。
Q. 有機ラジカルELについて紹介頂いた研究は2007年の論文でしたが、これ以降の主要論文や総説等あれば紹介頂けないでしょうか?
A. 有機ラジカルELへのご質問を頂き、ありがとうございます。それ以後は研究の興味をより基礎的なもの(たとえば有機ラジカルELの元となった「熱ルミネッセンス」)、あるいは有機半導体の方にシフトしたため、「有機ラジカルEL」そのものの展開は行っておりません。いわば、「有機ラジカルEL」はまだシーズの発見・提唱の段階ですが、潜在的に大きな可能性をもつものと思われます。例えば、別のグループ、例えば分子研の草本先生らは安定ラジカルを用いたELを試作するなどの展開をされています。我々の研究はそれらの研究の発端の一つになっていると思います。
以下には、私の著作のなかから「有機ラジカルEL」あるいは「熱ルミネッセンス」の研究の一部をリストしました。
<有機ラジカルEL>
1)池田 浩
未来材料, エヌ・ティー・エス 2008, 8, 10-16.
“熱発光を示す励起ビラジカルの発見と「有機ラジカルEL」の開拓”
2)池田 浩
機能材料(Kinou Zairyou), シーエムシー出版 2010, 30(5), 42-49.
“有機ラジカルEL —化学反応で生じる励起ビラジカルの特徴に着目した,長波長発光・量子効率増大・コスト低減・耐久性向上への新提言—“
3)池田 浩
化学工業,化学工業社 2011, 62(3), 30-35 (198-203).
“常識を打ち破る「有機ラジカルEL」”
4)松井康哲,水野一彦,池田 浩
有機合成化学協会誌, 有機合成化学協会 2012, 70(5), 434-441.
特集号「有機合成がリードする材料の科学と機能」,”有機ラジカルの基礎特性とその機能化 ー過去の研究例から未来の有機ラジカルELまでー”
5)池田 浩,松井康哲
化学と工業, 日本化学会 2014, 67(4), 335-337.
“常識を覆す「有機ラジカルEL」”
<熱ルミネッセンス>
1) Namai, H.; Ikeda, H.; Hoshi, Y.; Mizuno, K.
Angew. Chem. Int. Ed. 2007, 46, 7396-7398.
“Thermoluminescence Originating from the Singlet Excited State of 1,4-Diarylcyclohexane-1,4-diyls: A Potentially General Strategy for the Observation of Short-Lived Biradicals”
2) Ikeda, H.; Matsui, Y.; Akimoto, I.; Kan’no, K.-i.; Mizuno, K.
Aust. J. Chem. 2010, 63, 1342-1347.
“X-Ray-Triggered Thermoluminescence and Density Functional Theory Characterization of gem-Diphenyltrimethylenemethane Biradical”
3) Matsui, Y.; Namai, H.; Akimoto, I.; Kan’no, K.-i.; Mizuno, K.; Ikeda, H.
Tetrahedron 2011, 67, 7431-7439.
“Twisted Molecular Geometry and Localized Electronic Structure of the Triplet Excited gem-Diphenyltrimethylenemethane Biradical: Substituent Effects on Thermoluminescence and Related Theoretical Calculations”
4) Matsui, Y.; Shimono, K.; Takae, K.; Namai, H.; Sera, T.; Ogaki, T.; Ohta, E.; Mizuno, K.; Ikeda, H.
ChemPhotoChem 2020, 3, 168-172.
“Rates of Ring Opening of Radical Cation Intermediates Govern Differences in Thermoluminescence between 1- and 2-Naphthyl-Substituted Methylenecyclopropanes”
5) 池田 浩
光化学、 光化学協会 2008 38 204-208.
“ビラジカルを経由する光誘起電子移動反応,熱発光,そして有機EL”
6) 池田 浩
化学工業、 化学工業社 2009 60(10) 7-11 (743-747).
“光誘起電子移動反応と熱ルミネッセンス ー基底および励起ビラジカルを生み出す逆電子移動過程ー”
7) Ikeda, H.
J. Photopolym. Sci. Technol. 2008, 21, 327-332.
Q. 有機EL素子を発光させる際に必要な電圧について、必要な電圧はどのような因子によりコントロールできるものなのでしょうか?
A. まずは発光体(トリメチレンメタン(TMM)ビラジカルの光励起状態)の一番最初の前駆体であるメチレンシクロプロパン(MCP)のOLEDデバイス中における酸化電位です。一般に酸化電位は溶液中でサイクリックボルタンメトリー(CV)で測定しますが、その際は
1)高極性溶媒中に
2)高濃度の電解質があり、
3)フェニル基などの芳香族置換基も自由にC–C回転でき、
一電子酸化されやすい状況にあります。一方、デバイス中では1)、2)は完全になく、3)もそれほど期待できません。従って、有機EL素子を発光させる際に必要な電圧としては、母骨格の酸化されやすさ(即ち、MCPの部分の酸化電位)のコントールが重要かと思っています。より実用的な有機ラジカルELの開発には、MCP骨格にかわる母骨格の開発、発見が重要です。
Q. Q2と関連して、有機ラジカルELをより実用的に利用するにあたり、どのような分子設計が必要とされるのでしょうか?MCP転位のお話では分子の置換基がベンゼン環二つだったのに対し、素子作成に当たってはナフチル基を利用されているのも関係があるのでしょうか?
A. ご指摘の様にQ2と関連する大変重要なご質問です。A2で回答したようにまず母骨格部分の分子設計が重要なのですが、ご指摘のあった周辺の置換基も極めて重要です。やはりベンゼン環などの芳香環を、種類を変えて、個数を変えて、置換する必要があります。
そうすることにより、
・有機合成しやすい(鈴木-宮浦カップリングなど様々な有機合成法が使える)
・可視光発光、より長波長の発光が実現できる、いわば自在にコントールできる
・発光素子の寿命が長くなる
・発光素子が作製しやすい(他の電子輸送層(剤)、正孔輸送層(剤)とのなじみが良くなってくる)などのメリットがあります。