大阪大学エマージングサイエンスデザインR3センター

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コース5 Q&A

テーマ:オリエンテーションと電子励起状態分子の科学と計測、応用 講師:宮坂博(2024.4.12)

Q. 過渡吸収スペクトルを利用した反応の解析については、光化学反応に対する解析が主体であると理解しましたが、光との相互作用を伴わないイオンやラジカルの反応(例えばラジカル重合など)の解析に利用している例があればご教示いただけないでしょうか。

A. ご理解の通り、過渡吸収スペクトルは、パルス光を照射し、分子を電子励起し、その後の時間変化を「電子スペクトル:一般には紫外可視吸収スペクトル」として検出する手法です。分光検出のためには、赤外吸収、ラマン、ESRなど、他の方法も用いられており、時間分解赤外、ラマン、ESR分光などとして応用されています。ただし講義でも申しましたが、どのような化学種も「電子スペクトル:一般には紫外可視吸収スペクトル」を示しますので、過渡吸収測定は、原理的にはすべての化学種を検出できる言う意味で、また時間分解能もレーザーのパルス幅にも依存しますが、原理的にはフェムト秒程度と高い事もあり、広く用いられる手法です。
 さて、このように時間分解でスペクトルを測定することは、光励起の代わりに、たとえば溶液を混ぜてからの化学反応の時間経過に対しても応用可能です。これは一般には「ストップトフローシステム」と呼ばれ、日本の分光計測装置メーカーからも販売されています。おおよそミリ秒程度の時間分解能で、時間変化を「電子スペクトル」として検出できます。上のキーワードで、(YahooでもGoogleでも) 検索するといくつかの情報が入手できます。市販装置
ですので、上に書いていただいた反応を含め、多くの化学反応に応用されています。キーワードとして「ストップトフローシステムの応用例」として調べていただければ、色々な反応に応用した結果があると思います。

テーマ:電子顕微鏡のハードウェア 講師:島政英(2024.04.18)

Q. 結像を観察する際に、 SEM と STEM ではどのような違いがありますでしょうか。

A. SEM は 2 次電子や反射電子を検出しており, STEM は透過した電子を検出している,という違いになります。

Q. 講義の最後のほうに色収差についてのご説明があったかと思いますが、観察像はモノクロのイメージがあります。色を反映する技術もあるのでしょうか。

A. S EM や T EM などの観察像がモノクロ になっている のは、 電子の量を強度 分布 として画像化しているためです。電子顕微鏡で色という言葉は電子線が単一のエネルギーを持つのではなく,エネルギー分布を持つことを意味しています.ゆえに, E ELS のような分光器でエネルギー分光などを実施することが可能です。これにより、試料に含まれる元素、化学結合状態、プラズモンやフォノンのような準粒子、バンド構造などの情報を得ることも可能となります。

Q. 電子回折の同定方法は、回折スポットの対称性や距離を測長する 文献や Sim. データと照合するとの進め方であっていますか? EBSD のようにコンピューター上での自動定性のような手法はあるのでしょうか?( p35)

A. 記載していただいているような方法で大丈夫だと思います。また、 recipro のようなソフトウェアもご参考にしていただけるかと思います。 EBSD のよう に方位解析を行う手法としては,TEM では 、 nanomegas 社 の結晶方位解析装置 が あります。

Q. STEM BF-Aperture の効果と意味に関してですが、前段のTEMの位相コントラスト強調の効果と考えてよいでしょうか? TEM の場合どこまでの回折情報を含めて対物絞りの調整を行うかと思いますが、 BF-Aperture の絞り径の選定方法に関して教えてください(p.47)

A. BF-Aperture についてですが、 STEM の場合に重要なパラメーターである取り込み角を制御するという目的で使用します。 強調したいコントラストに合わせて, BF-Aperture の絞り径を選択いただければと思います. 小さい絞りを使ったほうがコントラストは上がりますが,その代わり,全体的に画像がより暗くなりノイジー に なります. コントラストの強調と画像の明るさがトレードオフの関係になっていますので, 得られる画像を見ながら 最適条件を見つけ出す必要があります.

Q. 4D-Canvas に関してのもう一点ご質問になります。 4D-STEM に関しては、カメラでの取得と、HREM社様での解析ソフトのお話を最近よく聞きます。カメラでの取得に対して、4D-Canvasのメリットと違いに関して教えてください。

A. HREMでの解析ソフトについてそんなに詳しいわけではありませんので、正確に回答することができません。大変申し訳ございません。4D-Canvasは通常のカメラと比較し,フレームレートが早いことや,直接露光での電子検出ができるためノイズが非常に少ないことがメリットとして挙げられます.
(https://www.jeol.co.jp/words/emterms/20160216.155039.html#gsc.tab=0)などを得るなどを得るためのための検出器となります。

Q. TEMは垂直方向に関して、平均化された情報を示すと思うのですが、これによって得られるマッピングのどの位置の元素も平均化されてしまうといった問題が存在することはあるのでしょうか。また、このような垂直方向の情報を分けて取得するといった方法もあるのでしょうか。

A. 基本的には 垂直方向の情報も含まれていると 考えていただいてよいかと思います。垂直情報を分けて取得し3次元的に観察するためには試料を傾斜させて複数の像を取得し、画像を再構築する tomography
(https://www.jeol.co.jp/words/emterms/20121023.074558.html#gsc.tab=0)
や、STEM において収束角を大きく し 焦点深度を浅くすることで3次元情報を得ることも可能な場合があります。こちらは東京大学の石川先生
(https://interface.t.u-tokyo.ac.jp/japanese/member/ishikawa/index.html )などが精力的に研究されておられます。ご参考にしていただければと思います。

Q. STEM-BF と TEM から得られる情報に違いはあるのでしょうか。個人的には STEM は EDSによるマッピングができるといった合わせた測定がしやすいという点がメリットなのかと感じたのですが、それ以外に得られる情報自体に違いがあるのでしたら教えていただきたいです。

A. 光学的な結像理論から言いますと,STEM-BF と TEM-BF では得られる情報の違いはほとんどありません.いずれも, 散乱吸収コントラスト,回折コントラストおよび位相コントラストが重畳しています EDS や EELS が STEM で よく使われているのは,STEM では電子線を収束させて スポットにしているため,電子線の照射されている領域と,そこから得られる EDS や EELSの信号との位置情報の関係が ほぼ誤差なく対応付けられているからです。

Q. 電子の波長は加速電圧が低いほど短くなると伺いました。波長が分解能に関係することは理解したのですが、実行的な分解能にどれほど効果があるのか気になりました。加速電圧が 100kV変わったときの波長の変化が装置の最高分解能とくらべかなり小さいように感じました。

A. わかりにくい説明にな ってしまい申し訳ございません。 電子の波長は加速電圧が低いと長くなります. 電子の波長が短いほど空間分解能が高いということになりますが、例えば 200kV の加速電圧であっても、電子の波長は ピコメートルオーダーとなり空間分解能 (サブナノメートル~数ナノメートル よりもかなり 小さい 値とな っています。電子線の波長を より短くしても 空間分解能があまりよくならない要因は球面収差があります 。

テーマ:溶液界面・微粒子の新分析法 講師:渡會 仁(2024.5.8)

Q. レーザーとレンズを組み合わせた分光分析を幾つか紹介されていましたが、そのうちの一つでは、800nm程度まで観察領域を絞り込めているというお話がありました。この場合のZ方向の領域(焦点深度)はどの程度となりますでしょうか。冒頭で液液界面の厚さが1nm程度ということを仰っていたので、どこまで界面の領域に焦点を絞り込めているのかが気になりました。

A.  対物レンズの焦点深度dd = λ/NA2より計算すると、蛍光波長λ = 577 nm, 開口数NA=1.4では、d = 294 nmとなりますので、界面の厚さに比べるとかなり深い範囲を観測していることになります。しかし、蛍光分子のDiIは、水相にも有機相(ドデカン)にも溶けず、界面に吸着した状態にあります。この状態を作るには、水相の上に、微量の希薄なDiIのクロロホルム溶液を乗せ、クロロホルムを乾燥させた後にドデカンを加えます。このようにして、DiIの拡散する範囲を二次元の界面内に制限できていると考えています。

Q. 誘電泳動のイオン雲モデルに関してrDEPの正負が持つ意味合いおよび説明いただいた内容に関する私の解釈があっているか教えていただけますでしょうか。もし異なる場合正しい解釈をご教授いただけると幸いです。

・解釈 スライドでは電極が負の電気を持つ瞬間を想定。粒子はそれに対応して、外側に+の電気がいる。小さい粒子や低い周波数のときは周りのカチオンが揺らぐことができ、カチオン領域がアニオン領域に比べ、大きなサイズとしてふるまうため、rDEPが正となり(カチオンのようにふるまうイメージでしょうか?rDEPの正負が持つ意味合いについてあまりイメージが湧いていないので教えていただきたいです。)、正の誘電泳動を生じる。小さい粒子や低い周波数のときはその逆で、アニオンに近いふるまいをして反発し、負の誘電泳動を生じる。

A.  誘電泳動の正・負を決めているのは、誘電泳動移動度αqの符号になります。低周波数では、角周波数ω=2πfが小さいので、(σp – σm)の項が、高周波数ではωが大きいので(εp – εm)の項が優勢になり、この符号が誘電泳動の正・負を決定します。ここで問題としているポリスチレンの表面はわずかに負に帯電しています。従って、表面付近には溶液中の正のイオンがやや多く分布しています。この状態で交流電場が作用すると、表面付近の正のイオンに揺らぎが生じます。このときの揺らぎの距離は、低周波数では長く、高周波数では短いと考えられます。粒子は、このイオンが揺らいだ状態(ion cloud)を伴って泳動しますので、この時のion cloud を含めた泳動粒子全体の半径rDEPは大きくなり、またion cloudを含む泳動粒子の伝導率σpは媒体(水)の伝導率σmより大きくなり、(σp – σm) > 0 となって正の誘電泳動を示すと考えられます。一方、周波数が高いときは揺らぎの距離が短いのでion cloudの影響は小さく、泳動する粒子の半径rDEPは元の粒子半径に近くなり、粒子の誘電率εpは元々媒体(水)の誘電率εmより小さいので、(εp – εm) < 0 となって負の誘電泳動を示すと解釈されます。なお、大きな絶縁性の粒子ではion cloudの影響は割合として小さく、広い周波数で(σp – σm) < 0、(εp – εm) < 0となって負の誘電泳動を示すと考えられます。

Q. 界面では微粒子の吸着や、アミロイドの凝集がみられるとのお話でしたが、o/w/o型やw/o/w型エマルジョンのような、複数の界面からなる系では、分子の凝集はどのような挙動を示すのでしょうか。また、どのように各界面を分析するのでしょうか。スライド61ページの、ミクロ相分離も、微粒子の中の分離ということで、上記のo/w/o型やw/o/w型エマルジョンのような複数の界面ととらえることは可能でしょうか。

A.  ご指摘のように、o/w/o型やw/o/w型エマルジョンでは、界面を通した二段階のイオンや分子の移動が可能であることから、分離法に利用されることがあります。例えば、w/o/w型エマルジョンの外側と内側の水相の酸濃度が異なる系などは、金属イオンの濃縮に利用可能と考えられます。このときの界面の測定法としては、条件のマッチングが必要ですが、顕微蛍光法や顕微ラマン法が可能と思います。61ページの例はw/o/w型マイクロエマルジョンの液滴にレーザーを照射したときの現象ですが、液滴内部の直径100 nm程度の水滴(通常の顕微鏡では見えません)が、光熱変換で液滴の温度が上昇し、相分離でマイクロエマルジョンが集合して、液滴内に顕微鏡で見える大きさの新たな相を生成します。この内部の相を調べるために、Co(III)-PAR錯体のラマンスペクトルを測定しました。マイクロエマルジョン中の錯体ではアゾ型のラマンピークが大きく、水中のラマンスペクトルではイミン型のピークが大きいことから、内部の相は水相であることを確認しました。

Q. スライド13: DREIDING Force Fieldの式には様々な相互作用力が反映されていましたが、巷でよく言われる疎水性相互作用に関する要素が無いように感じました。これに関しては広義の静電相互作用としてelectrostaticの項に含まれると考えてよいのでしょうか。

A.  この液液系でのシミュレーションでは、水と有機溶媒が二相に分離して混じらない状態が再現できており、その意味では疎水性相互作用が表現できていると言えます。しかし、ご指摘のように、疎水性相互作用を表す独立した項はありません。相分離に最も寄与している項は、お考えのとおり、水分子間の強い静電的相互作用で、これが有機相の溶解を排除していると考えられます。試しに全原子へのformal chargeをゼロにすると、二相は完全に混じり合う結果となりました。かつて「疎水性相互作用」の実体は何かという議論が随分なされ、疎水性分子の周囲に氷様構造が生成するという提案もありましたが、現在はあまり支持されていません。むしろ、水と疎水性分子の相互作用は、Scaled Particle theory(SPT) のところで説明しました水中の空孔生成エネルギー(自由エネルギー)に相当するものであると考えられます。

Q. スライド19: 生体膜の界面活性剤は二本鎖なので高粘度というお話でしたが、これが生物的にメリットとなる現象にはどのようなものがあるのでしょうか。

A.  細胞の二分子膜を構成する界面活性剤は、二本の長い疎水基をもつリン脂質です。この二分子膜は液体と固体の間の適度な流動性をもっていて、二分子膜に埋め込まれているタンパク質(酵素)が、埋め込まれた状態で膜内で二次元的に動いて、外部の細胞膜や酵素等との反応に適した位置に移動できるようになっています。あるいは、外部から細胞内に必要なイオンや分子を取り込み、更に排出するために、膜内のイオンチャンネルタンパク質の配向を支持したり、その移動を支援していると考えられます。このように、生体膜は溶液状態とも固体状態とも異なる、流動的な二次元的支持媒体となって、生体内の分子移動やシグナルイオンの発生に寄与していると考えられます。

Q. スライド42: 金属イオンの溶媒抽出における液液界面の役割は、触媒効果と濃縮効果とありました。濃縮効果については、スライド36のバルク層へ空孔形成するよりも界面に居た方が安定という理論で理解しましたが、触媒効果というのは濃縮効果によって、結果として界面が反応場になるからという認識で合っていますでしょうか。

A.  触媒効果も濃縮効果も、どちらも分子の吸着性に基ずく現象ではあります。触媒効果は、反応速度の促進効果で、例えば有機相に存在する反応物が界面に吸着することにより界面濃度が増大し、水相の金属イオンと界面で反応する割合が増大する効果で、お考えのとおりです。溶媒抽出の場合は、一般に生成物は界面に留まらずに有機相に溶解します。一方、濃縮効果は、水相、有機相内の分子や界面で生成した分子が界面に吸着し、界面濃度が増大して界面で濃縮される効果です。このような界面濃度の増大により界面飽和濃度に近づくと、溶液中では生成し得ないような低濃度でも、界面では二次元凝集体を生成することがよくあります。

Q. スライド58: 赤血球と白血球を分離されていましたが、白血球と血小板を分離する手法は何か考えられますでしょうか。

A.  白血球と血小板の大きさは、それぞれ10-15 μmおよび2-4 μmとかなり差がありますので、磁気トラップ法や、今回ご紹介しませんでしたが、Field Flow Fractionation法(FFF法)が可能かと思います。病院の現場では、連続遠心分離法によって、白血球と血小板を分別採取しているようです。

Q. スライド66, 67: 四重極電極において周波数を変化させると、正負の誘電泳動の方向が変化するのはなぜでしょうか。スライド66の式においては泳動距離が反映されているのみで方向については関係ない式だと思いましたので考え方を教えてください。

A.  誘電泳動の方向を決める、即ち誘電泳動移動度αqの符号をきめるのは、低周波数では伝導率の差(σp – σm)、高周波数では誘電率の差(εp – εm)の符号になります。水中のポリスチレンの場合は、どちらも負の値になり、広い周波数で負の誘電泳動が予想されます。しかし、実際にはポリスチレンのサイズにも依存し、小さいポリスチレンの場合は正の誘電泳動を、大きいポリスチレンの場合は負の誘電泳動を示します。このときの正の誘電泳動は、ion cloud の効果と考えられます。ポリスチレン粒子の表面はわずかに負に帯電しているため、電解質水溶液中では、粒子の周りに正のイオンがわずかに多く分布します。この状態に交流電場が係ると、周波数に応じてion cloudが揺らぎます。この揺らいでいるion cloudと共に粒子は泳動するので、低周波数では揺らぎが大きく粒子は見かけ上サイズも大きくなり、正イオンを含むので伝導率も大きくなります。そして、(σp – σm)が正となり、正の誘電泳動を示すと考えられます。

Q. レーザー光泳動で白血球と赤血球の分離ができるとのことでしたが、レーザー光泳動やその他の泳動を利用した化合物のカラム等は実現可能or研究されている等の事例はございましたらご教示いただけますでしょうか。

A. ご紹介した光泳動力や磁気泳動力は、単一分子に直接作用するには力が小さ過ぎますが、ナノ粒子やマイクロ粒子の光泳動や磁気泳動を仲立ちとして、分子のクロマト的分離を行うことは可能と考えます。レーザー光をオプティカルファイバーに通し、ファイバーの外に漏れる光で流れる溶液中の微粒子をトラップした実験はあります。また、薄層クロマトグラフィーを強い磁気勾配下で行い、常磁性金属イオンの分離を試みた研究があります(M. Fujiwara et al., J. Phys. Chem., B, 2006, 110, 13965-13969)。しかし残念ながら、現在のHPLCに対抗し得るようなカラム分離法にはまだ至っておりません。

テーマ:電池の基礎と次世代の研究開発 講師:妹尾 博(2024.5.14)

Q.有機正極電池に関しては耐久性(繰り返し耐性)はどのくらいか教えて頂けたらと思います。

A.現状の無機正極に比べて有機正極は耐久性が良くないイメージですが、私の同僚の八尾が中心に行なっている研究成果の一つで、インディゴカルミン(藍染の一種)を活物質に用いた場合、1000サイクルまで安定に作動することを実証しております。劣化の原因としては、有機物のHOMO/LUMOを超えた電圧での分解や、電子伝導性の欠落、また最大は元の化合物に加えて反応生成物やその中間体が、液体電解液に溶出があります。これらを防ぐために六員環を構造の中心に配置し、溶けにくい側鎖を有する分子設計が肝心となります。

Q.全固体電池の実用化で一番ネックになっていることは何でしょうか?

A. 全固体電池は電解質の材料により酸化物系全固体電池と硫化物系全固体電池の大きく2種類があります。前者の場合、非常に硬いので変形しにくく隙間が出来てしまうため、電解質同士また電解質-電極活物質の間でイオン伝導性や反応性が悪くなることがネックです。この隙間を埋める方法について各種検討がなされています。後者の場合、外から微量の水分が入った際に硫化物と反応して硫化水素が生じてしまう問題があります。これを改善するために水分と反応しにくい硫化物を合成したり、パッキングを工夫して水分が入りにくい対策が施されています。他にもハロゲン化物全固体電池などが近年研究されていますが、実用化研究まではもう少し道のりがかかりそうです。

Q.電気を媒介にした形でのエネルギーストレージ形態が今後の主流になると思いますが、電池、セル化した際の理論容量が金属固有の特性から決まってしまうとすると、最終的な電池性能の向上は限界があるのかと思います。これら理論容量を突破するような技術発見はあり得るのでしょうか。

A.理論容量を突破する方法ですが、単純に用いている元素の利用できる価数変化を幅広く方法があります。例えば硫黄Sですが、通常は-2価〜0価間の反応を利用していますが、硫黄は高価数+4をとることが可能であり、千葉大学津田教授とともにアルミ電池(資料に記載)で2電子反応を超える容量を実証しております。あとは電圧を上げる方法ですが、フッ素Fが最も電圧が高い正極材料になりうるので、0価と1価の反応を利用する研究が京都大学小久見名誉教授によりRISINGプロジェクトして始められ、現在は安倍教授がRISING3を率いられています。

Q.電池の開発は材料に依存しているように思えますが、電圧以外の性能について形状等の工夫による向上は見込めないのでしょうか?

A.ご指摘の通り電池の開発は材料に依存している部分が大きいものの、実際に使われている液系LIBでは材料以外の側面が大きいです。代表的な円筒型18650(直径18mm、高さ65mm)電池では、1本あたりのエネルギー密度は特に2000年代に年々上昇し続けましたが、これは活物質材料を変えた訳よりも、内部の詰め方や通電方法などを工夫した成果だと言われております。また、先のKRI木下様から講義にもありました通り、活物質材料を練り込んだものを集電体に押し付けるドライ電極といった形状を工夫した電池など、まだまだ検討が途上のところもあります。

Q.負極リチウムのデンドライト成長をセパレーターを突き破ることない程度に成長させるような制御ができれば、電極面積の増大となり内部抵抗の減少になると思います。ですが、これはリチウム反応分布の不均一性につながることも容易に想像できます。電極表面形状が不均一でも反応分布を分散させるような方法などは研究されているものなのでしょうか?

A.負極リチウムの充電は電析めっきを行なっていることになります。めっきでは表面上への核形成とその核からの結晶成長といった2段階での反応で進行することが知られております。この2段階目ですが、どうしても尖っている部分が一番Li+イオンが集まりやすい=結晶成長が起こりやすいため、不均一の場合は尖っている部分からより大きくなりデンドライト成長となっています。ご懸念の不均一でも反応分布を分散させる方法ですが、いくつかの方法が検討されております。1段階目の核形成を促進するために、出来るだけ電流を小さく&過電圧(抵抗)を大きくする方法や、電解液側の粘性を上げて結晶成長しにくくする方法、さらに不均一でも追随する表面コートなどが研究されております。ただ、いずれも完全にデンドライトを抑制しているとは言い難いかと考えられます。

テーマ:光触媒材料の原理と応用 講師:平井隆之(2024.5.21)

Q.有機半導体光触媒は光照射しているため、劣化しそうなイメージがありますが、繰り返し耐久性等は評価しているのでしょうか。量子収率についての評価の理解が不十分で申し訳ございません。発光量子収率の場合は吸収と発光で計算すると思いますが、光触媒の場合は吸収と生成物の濃度で計算するのでしょうか。

A. 繰り返し耐久性は可能な範囲で検討しています。長時間の光照射、あるいは繰り返し使用などです。
光触媒の量子収率は、照射した光子のモル数に対してどれだけのモル数の生成物が得られたかで評価します。

Q.欠陥によって収率の上がる触媒反応があるとのことでしたが、これは欠陥によって生じるTiのダングリングボンドが重要なのでしょうか?それとも酸素がないことが重要なのでしょうか。例えば、TiとTiO2を1層ずつ積層させた場合の側面では同様の反応は起きないのでしょうか?

A. 詳しい検討はできておりませんが、おそらくダングリングボンドが基質分子と結合することで反応を容易にするものと思われます。

Q.可視光吸収を発現させる方法として、不純物ドープと、GaNとZnOとの組み合わせのように二種の半導体を組み合わせる方法をご説明されたと思いますが、二種半導体の組み合わせについては、片方の価電子帯と、片方の伝導帯を使うことで、よりエネルギーギャップの小さい吸収が可能になったという認識でよいでしょうか?

A. 例えばGaNとZnOの組み合わせの場合、単なる混合物ではなく混晶状態になると言われていますので、上記の解釈は成り立ちにくいと思います。原子レベルで混ぜ合わさることにより、単一種でのバンド構造とは異なるバンド構造を形成していると考えるのが妥当だと思います。

Q.Zスキームのところで説明されていたように、やってみてたまたまうまくいくパターンがあると仰っていましたが、現状も研究開発の主流はそのような進め方になるのでしょうか。MIなど理論的に探索する方法が出てきていますが、そのあたりの活用状況はいかがでしょうか。

A. 計算化学の進展に伴い、バンド構造の設計や表面構造の最適化などが期待できるようになってきていると感じます。実験と並行して、あるいは先立って使用される例も増えています。

Q. 変換効率が課題とのことであったが、社会実装されるにはどこまで変換効率を上げる必要があるか。

A. 太陽光発電デバイスと同じ桁、すなわち10%台が必要と考えられています。

Q.光触媒関連の開発の方向性は大きく以下の2種をイメージすればよいでしょうか?
①材料開発 : 光触媒を利用したい化学反応に対して、最適なエネルギーバンド構造(エネルギー位置とバンドギャップ)
②デバイス・システム化 : 量子収率・太陽エネルギー変換効率をあげるため

A. ①付け加えますと、光触媒の場合は、化学反応を効率よく選択的に起こすための表面設計や助触媒の開発なども重要になります。
②おっしゃる通りで、実装化に向けて重要になると思われます。

Q.人工光合成が現実的にエネルギー問題の解決につながると言えるには、太陽エネルギー変換効率で何%程度を目標とすべきなのでしょうか?

A. 太陽光発電デバイスと同じ桁、すなわち10%台が現時点での目標と考えられています。

Q. アナターゼ型の酸化チタンはZnOと同じバンドギャップですが、ZnOは汎用的には用いられないのでしょうか??
また、一般的な酸化チタンは表面処理が施されますが、光触媒として使用する際に適した表面処理などはあるのでしょうか??

A. ZnOは光励起された際に不安定になることがあり、実用化には至りませんでした。光触媒として用いる二酸化チタンは基本的に表面処理しませんが、製造法によって表面状態が異なる可能性があります。アナターゼ、ルチルでも何種類もの触媒学会標準触媒や製品があり、反応によって活性が異なることがありますので、可能であれば最適な製品を選ぶことになります。

Q. 太陽光を有効活用できれば、かなり面白い技術だと思いました。どうやってナノ粒子を触媒として担持させているのでしょうか、

A. 多くの場合、触媒調製の基本的な方法を踏襲しています。含侵法や析出沈殿法という、液体に溶解した塩に浸し還元処理や熱処理するなどの方法です。光触媒の場合は、光還元法(光照射で得られる励起電子で塩を還元し析出させる)などの方法もあります。

Q. ルチル型TiO2についてのご講義の際、ルチル型TiO2について再注目したような旨をお話しされていたと思いますが、改めて再注目した時のモチベーションを教えていただけますと幸いです。

A. 特に初めての反応を試す場合には上記のように複数の触媒学会標準触媒の活性を試す場合が多く、その中でルチル型の二酸化チタンが明らかに高い活性を示しました。その理由を考える中で表面酸素欠陥の役割に気付いたということになります。

テーマ:分子系の二光子吸収とその応用 講師:鎌田賢司(2024.5.29)

Q. スライド22: 光制限は他の過程との組み合わせで効率化するとのことでしたが、よく理解しきれませんでした。詳細をご説明頂けますと幸いです。

A.例えば、二光子吸収によって生成した励起状態が一光子を吸収する「励起状態吸収(ESA)」などが挙げられます(スライド92参照)。こうすると実効的(段階的)三光子吸収となり、入射光強度にたいしてより急激に吸収が増加することで、光制限としての理想的な応答に近づけることができます。講義では説明を省きましたが、光制限デバイスでは二光子吸収を含む非線形吸収を用いたタイプの他に、非線形屈折率変化(入射光強度で屈折率が変化する過程)を用いたタイプもあり、屈折率の変化を通して光散乱を増加させたり、入射光の発散角を増加させて、透過光強度を低下させるテクニックがあり、それらとの非線形吸収ベースのタイプを組み合わせたものも報告されています。

Q. スライド30: 細胞成育培地としてどんな例があるのでしょうか。

A.ジャングルジムの様な網目状の構造を作ってその中に細胞を成長させて組織の成長を促すものや、針山のような構造を作っておき、その上で細胞を成長させて、その動きや成長の違いを見るような実験の報告例があります。

Q. スライド35, 38: 自然にはできない光学特性, 負屈折材料, 左手系媒体, 音響メタマテリアルが実現可能とのことでしたが、なぜそのようなことが可能なのでしょうか。そもそもメタマテリアルになる理由・原因が何なのか気になりました。自然界には光の波長以下の周期的構造体は存在しないからという認識になるのでしょうか。

A.光などの電磁波は、その波長以下の構造に対しては、構造を平均したものとして応答します。ですので、ある波長の電磁波からすれば、べったりした均一の組成の材料(普通の意味のマテリアル)であっても、不均一な微細で特定の構造を持った材料(メタマテリアルにあたります)のどちらも特性が違う「材料」と見なすことができます。これが基本的な発想で、メタマテリアルという「材料」があるわけでは無く、構造持った部分を「材料」と見なすわけです。電波のメタマテリアルを例に取ると、電波の波長は長い(例えばcmオーダー)ので、mmオーダーで基板上にコイルやコンデンサのパターンを作るとメタマテリアルとして動作します(スライド36)。コイルとコンデンサを組み合わせるとそのインダクタンスと静電容量に応じた特定の共鳴周波数が生じ、その前後で誘電率や透磁率に当たる応答が急激に変化します。このような応答は、その構造の素材となる銅線やプラスチックの基板それぞれ単独では生じない性質で、これらが組み合わさって、特定の形状をしていることからインダクタンスと静電容量が生じて、その特性がでてきます。これがスケールがぐっと小さくなって、nmオーダーに持ってくると、光に対して同じことができ、ガラスやプラスチックなどの素材では起こり得ない応答を、波長以下のコイルとコンデンサーを描くことで可能になります。より詳しい解説が、科学技術振興機構が運営する論文誌アーカイブJSTAGE上の精密工学会誌 (https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspe/78/9/78_767/_pdf 「メタマテリアルの基礎」加藤純一 著) に出ていますので、参考にしてください。

テーマ:走査プローブ顕微鏡法(固液界面解析への応用を中心として) 講師:福井賢一 (2024.06.06)

Q.  液中測定でのFMモードでは探針形状だけでなくプローブが広く液に触れてしまい、プローブの種類によって測定誤差が大きくなってしまうように感じるのですが、問題ないのでしょうか。

A. 一コマ目の38枚目のスライドに示すとおり,例えば空気中で約280 kHzの共振周波数をもつカンチレバーは水中では約130 kHzと大体半分になること,さらにそのピークがブロードになってQ値が下がるため,液中では共振周波数を正しくトラックする精度がやや下がることにはなります。ただ,探針先端以外のところが液と触れた状態にあっても,固体との界面のごく近傍で距離に対する力の変化が起こるため(これは真空中でも同じでvan der Waals力は探針先端より上の方でも働きます)探針先端での力変化が有為に測定されることになります。いずれにしても,水溶液中や,粘度が高いために更に共振周波数が低下するイオン液体中でも高い空間分解能が得られる装置的な方法論は確立しているので,実質的な問題はありません。

Q.  今回は主にFM modeの紹介でしたが、Tapping modeで工夫する余地があるとすればどのような点でしょうか?

A. Tapping modeでもカンチレバーの共振カーブを利用した測定であること,カンチレバーの振幅が小さいほど力感度が高くなることは同じなので,(レーザーを用いた検知をするときは)フォトダイオードの出力ノイズを小さくする必要はFM modeの場合と同様です。
現状で,ある装置メーカーのAFMは(フォトダイオードの出力ノイズの低減をしたうえで)FM modeではなくAM mode (カンチレバーの振幅をフィードバック信号とする方法)で液中の原子分解能測定を実現しています。

Q. 固液界面におけるSPM測定で、液相厚みを計測可能とのことでしたが、固体表面の粗さは計測結果に対してどの程度影響を与えますか?RaやRzなどをどこまで仕上げる必要があるか?

A. 固体との界面でのフォーススペクトルで,液体の層厚みが計測できることですね?
例えば,水溶液中で,単結晶固体の平坦面にある数原子高さのステップをまたぐようにフォーススペクトルを数点測定すると,固体のステップ形状に沿った(固体からほとんど同じ距離で)液体の層を示すピークが現れます。
一方,粗さのある固体表面ではどうなるかとのご質問ですが,探針先端の曲率半径よりも十分小さい凹凸であればあまり問題にはなりませんが,探針先端の曲率半径(私の研究で使っているものは参考値20 nm程度)近くの凹凸になると,そもそも(探針形状との重ね合わせ像が得られてしまうため)固体表面の形状自身が正しく測定できず,液体層厚みも測れません。

Q. 2つ目の資料ページ33枚目で、界面の水分子の温度を上げたケースでは、ポテンシャルEsを上げてもFrequencyシフト量は変化しずらくなるのでしょうか。(水素結合が働きづらくなるため)

A. 温度を上げて水の蒸気圧が大きくなると,測定上,一定の状態を十分な時間保持できなくなる(液量も液の濃度も)ため,実験的な証拠はありません。水素結合をつくらない溶媒の中でも液体分子の大きさに対応した振動構造(構造力)は現れることを分かった上で,もし有効水素結合数が減少するほどの温度で実験ができたと仮定をすると,電位に依存した変化は小さくなるはずだと思います。

Q. 900Kまで温度をあげて観察できるとのことでしたが、この場合、どのような現象を対象としているのでしょうか?(化学反応や結晶成長でしょうか)

A. 私自身は反応過程を追跡することが目的でしたが,結晶成長や表面構造変化を追跡している例もあります。熱ドリフトが大きくなるので,同じ位置で長時間測定することは難しいのですが,工夫をすれば最大30分程度はほぼ同一範囲の測定も可能です(装置依存は大きいですが)。

Q. AFMの原理に関して質問です。カンチレバー方式で分子間力や原子間力を計測しているといった内容は理解はできるのですがオングストロームスケールの微細な変形を優位な差で検出できるのかは疑問が残ります。センサ入力にはレーザーに対するカンチレバーからの反射でフォトディテクターへの入射光を使用していると思われますが、外乱等の影響はどの程度なのでしょうか。また発生する外乱は電気的にどういった形でフィルターされているのでしょうか。

 A. (講義資料にあるように)カンチレバーの背面に集光されたレーザー光が反射されて,カンチレバーからフォトディテクターの距離によってスポットも拡大されて4分割されたフォトディテクターに当たります。コンタクトモードでは,この4つのフォトディテクターに入った信号の差が力に変換されます。主にカンチレバーのバネ定数によって測定される力の精度が決まります。タッピングモードやFMモードでの力の精度はいろいろな要素が関わりますが,サブpN程度の感度となります。

高さ方向の精度はスキャナに使われるピエゾの定数(m/V)とfeedbackがきちんと働いているかによりますが,feedback信号を一定にするように高さを調整する機能はSTMと共通なので,サブオングストロームの精度は容易に確保できます。

「外乱」という意味がなにを指しているのか分かりませんが,たとえばフォトディテクターに入りうるレーザー以外の光は問題になることがありません。レーザーのスイッチをオンにしたあと,出力が一定になるまでにしばらく時間がかかりますし,レーザーがカンチレバーの背面にあたることでカンチレバーの温度が少し上がりカンチレバーの反りが変化することはありますが,双方を含めても2時間程度カンチレバーにレーザーを上げたあとに測定を開始すれば問題にはなりません。 

Q. 電気特性を評価する際にコンタクトモードでの評価を行います。仕事関数を考慮しての針材料の選定を行いますが、一方で針の摩耗等ですぐに使用できなくなる、正常に測定ができない等の課題があります。針材料の選定に関しての種類の裕度、針種、選定のアドバイスに関してアドバイスを頂けますとありがたいです。

 A. カンチレバーの母材自身はSiまたはSiNが主となります。それに各種材料でコートされたものが販売されています。摩耗に強いという点ではW,ダイヤモンドなどになりますが,金属もその他Au, Pt, Alなど種類は限られます。ただし,特別なコート材を選択して発注することが可能な探針メーカーもあります。

 Q. カンチレバー先端に分子を修飾するお話がありましたが、どのように狙いの形で修飾するのでしょうか。またその形に修飾できたことをどのように確認するのでしょうか。

 A. あの例では,Au被覆されたカンチレバーを使って,Auと容易に反応するチオールが分子の三脚の先に設けられています。付ける分子を十分希薄な溶液にして,その溶液への浸漬時間を決めます。探針先端につくかどうか,複数の分子が探針先端近くについてしまうかは確率的なものです。そのため,分子がつける作業をしたカンチレバーを用いて,1~3 nm程度のステップをもつ標準試料の表面を測定します。複数の分子が先端付近についてしまった場合には,ステップがダブった像としてい観測されることで識別できます。また,例に挙げた分子は紫外光または可視光照射で分子高さが変わるので,測定中に特定の波長の光を照射することで応答するかで分子が先端近くについているかどうかを確認できます。手間のかかる作業になりますけれど。

 Q. AFMのカンチレバーの耐久性はどの程度でしょうか。同じカンチレバーを繰り返し測定に使用した場合にカンチレバーの変形度が変化し、測定結果が変わることは考えられますでしょうか。

 A. これは求める測定精度と測定試料に大きく依存します。原子分解能が必要となると,そもそも全く原子分解能がでないカンチレバーもありますし,丸一日原子分解能が維持されることはまれです。nmレベルの凹凸の形状の測定であれば,数日使えることも多いです(探針を大きくぶつけないなどの注意は必要ですが)。

テーマ:超解像度顕微鏡法(光プローブを中心として)  講師:伊都将司(2024.06.13)

Q. 回折限界によって2次元方向の分解能は波長の半分ほどになるというお話でしたが、シリンドリカルレンズをいれた3次元方向の分解能もどうようの値になるのでしょうか?あるいはシリンドリカルレンズ由来の値になるのでしょうか?

A. シリンドリカルレンズを挿入すると結像系に非点収差を与えてしまい,理想的な結像系と同じような議論ができなくなってしまいますが,ここでの分解能の指標として,単一蛍光分子のように点光源(PSF)とみなしても問題ない大きさの蛍光体をイメージングしたときのスポットサイズを考えます。そうすると,XY方向のスポットサイズは,XYのアスペクト比が等しくなる蛍光スポット形状において,シリンドリカルレンズがない場合に比べて幾分大きくなるので,分解能が多少低下することになるかと思います。Z(光軸)方向に関しては,もともと光学顕微鏡の高軸方向分解能が低いので大きな変化はないと考えて良いと思いますが,XZ平面で切り出したZプロファイルとYZ平面上のそれでは,最も径の小さくなるZ座標が異なるので,平均を取れば理想的な結像系に比べるとこちらも幾分分解能が低下したと言えるかと思います。ただ,講義でも申し上げたとおり,シリンドリカルレンズの挿入による非点収差の導入とローカリゼーション法による分子の位置推定を行うことで,回折限界を超えた3次元の分子の位置決定が可能となりますので,結像系としての分解能の低下があったとしても,非点収差を導入するメリットがそれを上回っているということかと思います。

Q. 海島構造の部分の解析に関しての質問なのですが、今回の場合だとXY方向での分布については分かると思ったのですが、Z軸方向に関しては、どのように空間が広がっているか、分離できているのでしょうか。それとも今回の資料の画像はZ軸方向に関して平均化された画像になっているのでしょうか。

A. 今回の講義で紹介しましたデータでは,3次元の蛍光分子の追跡は実施しておりませんので,ご推察の通りZ方向に平均化された画像になっております。なお,今回の試料では「海」部分のポリマー膜厚が70-80nmと非常に薄く,3次元追跡を適用するには薄すぎる試料であったという事情もありました。もう少し厚い試料ですと,3次元追跡を行うことでZ方向に関する情報も取得可能になると予想されます。

Q. スライド18: 単一分子かそうでないかで、コインシデンスが起こるか否かが変わるということは理解できました。スライド18において、単一分子では0ns以外に4種の時間で検出されていると思いますが、分子集団では0ns以外に2種の時間で検出されていると思います。これは横軸が小さいから2種しか検出されていないように見えているだけという認識で合っていますでしょうか。

A. はい,そのとおりです。横軸を拡げますと,パルス間隔の整数倍のところにピークが現れます。


Q.
 スライド65: シェル状のレーザービームで三日月状の励起域を絞ることに成功したというお話でしたが、なぜそのようなことが起こるのでしょうか。また、レーザーの形状を変えるのはどのように行うのでしょうか。

A. レンズでの光の集光はフーリエ変換で記述できると申し上げましたが,集光位置で3次元的に見るとシェル状(XY平面で見るとドーナツ状)の光の強度分布を実現するために,そのような光の強度分布を逆フーリエ変換した光の状態を,空間光位相変調器(レーザー光の位相の空間分布を制御可能なデバイス)などで作り,対物レンズで集光することで,目的の空間分布を持った集光スポットが実現できます。空間光位相変調器は例えば浜松ホトニクスなどから市販されています。

Q. P87あたり、のフォトレジスト中へのゲスト分子導入による実験を非常に興味深く思いました。ホストの高分子がだいぶ柔らかそうで、ゲストの蛍光分子がだいぶ大きく硬そうな印象を持ちます。今回の結果はホスト高分子をもう少しリジットにすると結果が変わってくるでしょうか。また、ゲスト分子としてもう少しコンパクトなものは選択肢にあがらないでしょうか。

A. ご推察のとおり,ホストの物性を変えるとゲスト分子の挙動も変化します。例えばホストがリジッドで分子量が大きく,ゲストのサイズから見て異方的なミクロ環境であれば,ゲストの動きもその環境に依存したものとなります。話が少しそれるかもしれませんが,例として,液晶に入れたゲスト分子の動きは(場合によりますが)液晶の配向方向とそれに対して直行する方向では変わってきます。
 ゲストのサイズに関してですが,一分子観察可能なほど光に対して耐久性が高く,蛍光量子収率の高い分子は現状限られており,発光プローブとしてはより小さなものが望まれているのですが,まだそのような分子は開発されていないと思います。ベンゼン1個程度だと小さくて良いのですが,発光がUV域になってしまい,1分子検出が難しい状況です。

Q. 膜厚依存性について意見を伺いたいです。今回は1um程度の厚膜ですが、数十nm程度に薄膜化しても同様の実験は行えるのでしょうか。

A. 現状,シリンドリカルレンズを用いた3次元の分子追跡の精度が,非常に良い場合でも20 nm程度(半値幅,スライドP76)で,干渉を用いた3次元イメージング(スライド P77)ですと10-20nmですので,数十nmの膜の厚み方向の情報を詳細に取得するには分解能が少々不足しているかと推察します。ただ,20nm刻みくらいの分解でよければ,何とか測定可能かもしれません。

Q. 蛍光分子を取り込むことで物性が変化したりなどが考えられます。蛍光物質の選定の際に気を付ける点などありますか?

 A. 蛍光を検出することがまず前提ですので,ホスト物質との相互作用で蛍光の消光が起こらないようにする必要があります。また,仰るとおり,蛍光分子によってホスト物質の物性に変化が起こると何を検出しているのかが分からなくなってしまいますので,こちらも注意が必要です。ですので,一分子の測定を実施する前に,一般的なUV-Vis吸収分光測定やIRスペクトル測定,蛍光スペクトル測定などで蛍光分子の添加がホスト材料にどのような影響を与えるかを調べておく必要があり,非常に重要な予備的検討です。

テーマ:マテリアル・インフォマティクス 講師:小口多美夫(2024.6.24)

Q. 計算機の進化により、AIが人間の能力を完全に凌駕する日が近いという議論もあるかと思います(いわゆるシンギュラリティ)。計算機科学を研究されている研究者の肌感覚として、上記のような言説について、どう思われますでしょうか?

A. 皆さん、いろいろな立場でそう心配されているかと思います。まず、物質・材料の空間はたいへん広いこと(組み合わせの世界なので)、この意味で我々の持っているデータは今のところたいへん限られていることから、既存データに基づくAIである限り簡単にはそうはならないだろうと個人的には思っています。ただし、AIが現実的で精密なシミュレーションと連携することでデータ生成が行なわれるようになった場合にはこの限りでなく、簡単に思いつく物質・材料の範囲はAIによって徐々に埋められていくのではと想像します。したがって、我々人間にはより創造性の必要な領域での研究が重要になるでしょう。

Q. アルミナの構造についての話が非常に興味深く、ご講義ありがとうございました。質問なのですが、座標としてC1~C5の5個が取り上げられているのは、1~5番目の固有値に比べ、6番目以降の固有値が0に近く無視できるからでしょうか。関西の都市間の距離の例では当然3番目以降の固有値はほぼ0になるということですが、アルミナの構造の場合にも、6番目以降の固有値はきれいに0になるのでしょうか。また、大変難しいとは思うのですが、アルミナの構造が5次元で説明できる直観的・物理的な説明はありますでしょうか。

A. 構造の空間は元々多次元ベクトルで表されているので、問題はいくつの成分(主成分)でその構造間の距離関係が近似的に再現できるか(固有値の和が示すproportionと呼ばれる)になります。この意味で、5つの主成分では100%proportionとなるのではなく、およそ90%の情報を含んでいます。一方、関西の都市間の距離は元々2次元平面の地図での距離ですので、2つの成分で完全に再現できます。一般の多次元ベクトルの場合に、いくつの成分で距離を再現できるかは、そもそもどんな問題であるのかはもちろんのこと、どんな特徴量を使うのか(ここではF-fingerprintを使いました)、ベクトル間の距離をどう測るか(ここではユークリッド距離とコサイン距離を使いました)に大きく依存します。マップを作る意味では、特徴量と距離の選択はできるだけ少ない成分で再現できるものを選ぶべきではありますが、選ばれた主成分の解釈性をどうするかも次元削減の方法を選ぶ判断基準になると思われます。ここでは簡単な多次元尺度構成法(multi-dimensional scaling)を用い主成分の意味づけも考察しました。

Q. マテリアルの視点のMIに関しては前々から興味があり今回の内容は非常に導入における内容で理解しやすい内容でした。一点気になった内容があり、MIによる安定構造の早期探索で導き出された答えとそれを製作するプロセスの技術レベルは現在の産業、研究領域で釣り合っているのでしょうか。MIでの回答結果をすべて現実世界で短期で再現できるのか疑念があります。

A. 実際の物質・材料の作製にはそのプロセスが重要となります。また、お話した範囲はあくまでも内部エネルギーに基づく熱力学的安定性から判断していますので、実際には有限温度の効果(自由エネルギーでの議論)も必要になります。今後、手法の拡張・改良により徐々にいろいろな効果やプロセスを考慮した構造探索手法に発展していくものと期待されます。

Q. マテリアルズインフォマティクスのサービスを提供する企業、ソフトウエアを提供する企業が増えてきているように感じますが、これまでマテリアルズインフォマティクスを実践されてきた方々は自分でプログラムを組んで検討してきたと思っています。これらのサービスを利用して中身は実質ブラックボックスのまま材料開発を進めることはリスクに感じる一方で、プログラム構築にかかる時間を大幅に削減できるメリットがあると思います。最後のスライドで材料開発に携わる技術者にとって重要なことは、何を入力として使用し、出てきた結果から何を読み取るかであるとの言葉をいただいていましたが、使用する道具(=マテリアルズインフォマティクスのプログラム/ソフト/サービス)について、どこまで気にして選ぶ必要があると考えられますか?

A. マテリアルに関わるソフトウエアが巨大化・複雑化し、ユーザーからは単にブラックボックスとなってきていることは確かに危惧すべきことです。この状況で重要なことはソフトウエアの開発側とユーザー側の関係であり、密にコンサルテーションができ、ソフトウエアの利用に関してフィードバックがうまく掛かるようにしておく必要があります。この時、知財に関する問題が生じる可能性があり、コンサルテーション契約の段階でこの辺りをしっかりと取り決めておくことも重要になると思われます。

Q. 講義の中のNaClの構造の最適化計算において、Na8Cl8と1セル当たり16元素で計算をされていたかと思います。元素の数が多くなると計算量が多くなることは理解できるのですが、実際に最適化する上で何を意識して1セル当たりの原子数を決めればよろしいでしょうか?

A. 原子数は構造における配置の組み合わせ数に直接関わるので、原子数とともに計算量はすぐに膨大な量となってしまいます。現実的には計算機資源と研究の緊急度により総計算量の上限が決まるので、単に原子数を増やすことは効果的ではありません。そこで、構造空間に制限を加えるなど必要に応じて何らかの効率化や情報の粗視化が必要になります。

Q. 第一原理計算を用いて特性をSimulationすることはかなり興味深い内容でした。特性という部分を改め定義するところがあまりイメージできなかったのですが、例えば移動度がどれだけほしいや硬度がどれだけ欲しいといった表現なのでしょうか

A. ここではデバイス等で使われる物性を一般に特性と呼んでいました。もちろん、物性値によっては第一原理計算だけで直接的に評価することが難しい場合もしばしば起こります。このときは、電子状態の情報からのいくつかの追加計算やモデルとの組み合わせ計算が必要となります。最近は、スケールや物理原理の異なるシミュレーションを連結する多階層シミュレーションの試みも始まっています。

テーマ:超分子とナノマシン   講師:山口浩靖(2024.7.3)

Q. 自己修復材料としての超分子を少しだけ紹介されていましたので、お伺いさせてください。現在、世の中に実装されている自己修復材料は、弾性回復を利用したものであり、キズそのものが修復するものではないと認識しています。 超分子を利用した場合の自己修復は、キズそのものを修復できることができる一方、分子運動を利用するために材料自体にある程度の柔軟性が必要となることから、社会実装する際には強度・硬度が不足となる場合が多いと認識しています。
1.上記認識は先生のご認識と合致しておりますでしょうか
2.1.が合致していましたら、強度・硬度の向上にはどのようなアプローチがあり得ますでしょうか

A. ご指摘の通りだと思います。超分子科学的に自己修復する場合は相補的な関係にある分子間相互作用部位同士が近づく必要があります。高分子の側鎖に相互作用部位を導入した場合、異なる高分子間の相互作用部位が接近することで、はじめて分子間の架橋部位が形成されます。そのためには高分子の分子運動に自由度が必要で、その自由をもたらすには柔軟性が必要です。

水素結合、配位結合、ホスト―ゲスト相互作用など、超分子科学的な相互作用(非共有結合)の強さは共有結合よりも弱いために、強度・硬度の上では改良の余地があります。高強度・高硬度の特性を付与しようとすると、上記の相互作用部位の接近が難しくなったり、材料中の分子運動を増すような条件に持ち込む(湿度や温度を高くしたり、溶媒を添加したりする)必要がありますが、以下の因子を考慮することで強度や硬度を改良することは可能であると考えられます。

〇多数の超分子科学低相互作用部位を導入して、多点で相互作用できるようにすることで相互作用部位同士が接近する確率を上げます。1つでは弱い分子間相互作用でも多点系ではその数分だけ(足し算ではなく)乗数として相互作用が強くなります。また、最近では、分子運動を持続できる架橋部位を高分子に導入することで強靭性材料が開発されています(動的架橋)。

〇高分子の絡み合い(らせん構造)を利用するのも一つの改良案かもしれません。我々の体内にあるコラーゲンもその一例ですが、アキレス腱にも存在する強靭性材料です。コラーゲンは三重らせん構造を有しており、それがさらにらせん状に高次構造を形成し、方向性のある強い材料になります。一度ほどけた高分子の鎖が、また材料を接触させるだけでらせん構造が誘起され、高分子間で絡み合うことでキズが治るような材料創製が合成高分子系でもできたら目的を達成できるかもしれません。

Q. 生体ではRhを用いた触媒が無いので、Rh人工触媒を作成されたというお話でしたが、生物がRhを選択しなかったのには何か理由があるのでしょうか?Rh触媒を作成されたことで何か気づかれた点などございましたら教えて頂けますと幸いです。

A. 生物の進化の過程では、生体がRhのような遷移金属元素は出会う確率はほとんどなかったのかもしれません。やはり生物は生体内で製造できない成分を食べ物から摂取しなければいけないために、Rhは簡単には入手できなかったと考えるのが妥当のように考えます。逆に、生物が利用する環境になかった元素や分子を生体システムに導入することで、今までに私たちが予想もしなかった機能を発現させることができるのではないかと期待できます。
 今回ご紹介した抗体を例に説明いたします。初めて生体が接する化合物を排除するために機能するのが免疫システムです。この免疫システムの中で最も重要な役割を果たしているのが、異物にジャストフィットする抗体です。抗体は、生体外成分を超分子科学的に結合することができます。生命活動維持のための機能を化学の触媒系へと応用したのが、今回の講義で紹介させていただいたものになります。人工系で優れた触媒能を発揮する生体外成分「遷移金属錯体」と、優れた分子認識能を有する生体内成分「抗体(不斉環境を与える因子)」がドッキングすることで、はじめてテーラーメイドの不斉触媒を創製することができました。生体高分子と合成分子(元素)の接点にはまだまだ面白い出会いがありそうです。

テーマ:表面・界面における超分子集合体の形成と化学反応 講師:田原一邦(2024.7.17)

Q. スライド22: STMには二つの測定モード(①高さ一定②電流一定)があるとのことでしたが、これらはどのように使い分けられているのでしょうか。

A. 知りたい情報によりますが、試料の凹凸に合わせて探針の高さが変わる②電流一定モードで測定することが標準的です。①高さ一定モードですと、試料の凹凸によっては画像を得ることが困難な為です。

Q.スライド49: 講義中に説明がなかったかもしれませんが、D,Eの図は3Kの違いで、空孔内での分子集合体の回転方向が逆になっているものと解釈しました。もしそうであれば、なぜこのように回転方向が逆になるのでしょうか。それとも両方の回転の分子が観測されるということでしょうか。

A. 説明不足で申し訳ございません。ここでは 3 K の違いは空孔内での回転方向に影響していません。回転方向に異方性は無く、どちらも等しい確率で出現します。ここで示している 2 枚の STM 画像は異なる空孔を、回転が始まる温度以上(3 Kの違いはありますが)で撮影したものと思われます。

Q. 非可逆反応を用いると分子集合体に欠陥ができやすいとのお話でした。この欠陥を無くすための方法として、可逆反応を用いるのが1方法だと思いますが、他に方法はあるのでしょうか。例えば、ゆっくり、少しずつ分子を投入することで欠陥を少なくできるなどは考えられるのでしょうか。

A. 表面に分子を導入する方法には、主に、真空下での昇華法(蒸着法)と、溶液のドロップキャストがあります。前者はある程度の分子の導入量を制御できるので、欠陥の減少につながると思います。その他には、反応性中間体(主にラジカル種)の表面での拡散速度や、反応の制御が欠陥の抑制に有効で、報告されております。

Q. スライド72: GNR(N=7)が電極に接合しなかったのが問題とのことでしたが、GNR(N=9)では上手くいったのはなぜでしょうか。

A. 電極と接合する GNR の幅や長さが影響していると考えられます。GNR (N = 9) の方が幅が広いこと、合成された GNR の配向性も GNR (N = 9) の方が良好で、電極接合に影響したと思われますが、参考論文に明確な比較はございませんでした。

Q. Scanning測定においては高精度に針を移動させる必要があると感じたのですが、その高精度の移動はどのように実現しているのでしょうか?

A. 探針の動作は、筒状の圧電素子により制御されています。筒状の圧電素子に電極が3枚繋がれており、そこへ印加する電圧の大きさで筒の形状を周期的にナノメータースケールで変形させて、駆動しています。

Q. 最後の応用のところで合金ができていて、特徴のある構造のものもできていると説明があったかと思うのですが、特に水の電気分解触媒への応用に置いて性能が上がった要因について教えていただきたく。またこのようにして作った触媒は将来的なブレイクスルーがあれば、大量生産できる見込みはありますでしょうか。先生のご感覚をご教示頂けると幸いです。

A. 水素発生反応において、触媒金属の水素結合エネルギーが鍵となります。強すぎず、弱すぎない触媒の水素結合エネルギーが重要です。単体では、Ptが最適な水素結合エネルギーを示します。他の金属を合金化することで、この触媒の水素結合エネルギーを制御することが可能です。合金化は触媒中の Pt の含有量を減らすことにもつながります。合金にある程度の活性があれば、Pt のみよりも調達コストを下げられる可能性があります。この研究は、この点を、Scanning probe block copolymer lithographyでの合金作成技術で実現した点に進歩があったと思われます。大量生産は現時点では難しいですが、少量でも高性能な材料が作成できれば、何らかの用途はあると感じています(曖昧な回答で申し訳ありません)。

Q. トリメシン酸から成るハニカム構造にコロネンが捕捉されたホストゲスト化合物が紹介されていましたが、空隙にコロネンが入っているのはどのような相互作用なのでしょうか。サイズ依存税が強いのでしょうか。構造的には空隙中は疎水性であり、コロネンも疎水性であるため、疎水性相互作用が駆動力であると想像しております。

A. サイズと形状が一致がとても重要です。そのなかで、トリメシン酸とコロネンの間にはvan der Waals相互作用と、トリメシン酸のカルボニル基とコロネンの水素との間の水素結合相互作用が駆動力となっています。

 Q. 3つのゲスト分子が捕捉された分子が紹介されていましたが、捕捉される順番等はわかっているのでしょうか。どれか1種類が捕捉されると他の種類のゲストの捕捉の速度は早くなったりするのでしょうか。

 A.補足される順番は分かってませんが、コロネンの周囲にイソフタル酸が六分子囲み、それがカゴメ構造の六角空孔に収容されていると想定しています。明確な回答になっておらず申し訳ございません。

テーマ:サーキュラーエコノミーとバイオプラスチック  講師:佐野浩(2024.11.8)

Q. DURABIOが撥菌性を発現するのは、利用したモノマーの構造に由来するのでしょうか。ポリマーになった際の高次構造が何か関係しているのでしょうか。

A. 簡単に申しますと、撥菌性はモノマーのイソソルバイドの構造に由来しますが、その発現にはポリマーとしての高次構造が必要となります。
こちらhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/koron/74/6/74_2017-0018/_article/-char/ja/?from=J-GLOBAL&jstjournalNo=G0122Aの論文にて、ポリマーの共重合構成においてイソソルバイドの分率が増えるに従い菌の付着が少なくなっていることから、イソソルバイドそのものが関与していることがわかりました。

なお、なぜ菌がDURABIO表面に留まれないか、については、同じ先生の論文https://www.jstage.jst.go.jp/article/koron/74/6/74_2017-0018/_pdfに示されるように、DURABIO表面が水分をはじくのではなく、表面に特定の厚みで水分が滞留し、中間水のような働きをして微生物などが接触した際に“滑り落ちる”ような現象となっているようです。

なお、DURABIOには生分解性はありませんので、水分が滞留しても共同が著しく低下したり、モノマーが分解・脱落することはほとんどなく、安定しています。

Q. 添加材を加えて、分解性を制御するといったお話があったのですが、その際に利用される添加剤が環境中でどのように分解・吸収されるのか興味があるのですが、そのような添加材に関しても生態系でうまく処理されるものがすでに開発されているのでしょうか。

A. 生分解性の素材・資材がもっと便利に使われるには、生分解性の制御は最も大きな課題として重要な点です。制御には2方向ございます。①分解が始まってほしいタイミングまで分解を抑える方向と、②意図したタイミングで分解を促進して完全分解を促す方向です。

①については、現在一般的に用いられている分解抑制剤は環境中での分解に長く時間がかかると言われています。これらの物質は化審法などの法規に定めれられた安全性をクリアしていますが、たとえば同じ場所での生分解性資材の長期の繰り返し仕様における影響についての情報はまだ多くははありません。そこで現在数社が環境中に蓄積しない添加剤の開発を進めており、実証試験が行われています。

②については、植物由来のデンプンや微生物が作り出す酵素といった物質が活用されつつあります。これらはもともと生物が生産する物質であり、環境中では速やかに微生物などに分解されます。注意いただきたいのは、市場にポリエチレンやポリプロプレンといったポリオレフィン類などに分解性を付与すると謳った添加剤が出回っていることです。
これらの添加剤はポリマーの分子を細断する効果はありますが、生分解の基本現象である、細断された分子を微生物が取り込んで完全に分解する、いわゆる代謝プロセスに誘導する事はできません。
したがって、たとえば日本バイオプラスチック協会は、この種の添加剤を加えた酸化型分解性プラスチックを生分解プラスチックではないとしています
(http://www.jbpaweb.net/assets/documents/sankabunkaisei_iken.pdf)。

テーマ:機能性高分子   講師:堀邊英夫(2024.11.15)

Q. PVDFの製膜乾燥時の結晶構造制御について、製膜基板の材質で結晶構造を制御することは可能なのでしょうか。

A.基板の材質や表面状態でPVDFの結晶構造が変化する可能性はありますが我々は行ったことはありません。

  
Q.
 乾燥時の結晶構造制御に関して、今回のような溶媒との相互作用や結晶化速度以外に、Roll to Roll環境のような特定の方向に応力がかかる環境を作ることで、結晶構造を制御することなどは難しいのでしょうか。結晶の配向性が変わるだけで、結晶構造の種類自体には変化はない、ということも十分に考えられるとは思うのですが、もし知見がございましたら、教えていただきたく思います。

A.PVDFの溶融サンプル(0.5mmt)で冷却後延伸を行うとα晶からβ晶になることは確認しています。ただ、溶媒キャスト薄膜では行ったことはありませんので、PVDFの結晶構造が変化するかは不明です。

テーマ:光応答機能性分子材料化学   講師:小畠誠也(2024.11.22)

Q. メモリ分野などでPタイプは研究段階にはあるという話がありましたが、実用段階まで進まない原因は何かあるのでしょうか。材料ごとに異なる部分もあると思いますが、最も大きな課題等をご存じでしたら教えていただきたいです。

A. フォトクロミック化合物をコンパクトディスクタイプのメモリ材料として使用するためには現状の方式とは異なる方式で活用されると考えられます。現状のメモリ材料はレーザー光で記録層を破壊(分解)する方式が使われています。また、無機材料を記録層に使用した際には、相転移が利用されており、書き換え可能なコンパクトディスクに使用されています。これらをフォトクロミック反応による方法に置き換えることも可能性ですが、2波長のレーザーが必要であることやCD, DVD, Blu-rayとの互換性を考えると、フォトクロミック化合物を使用するメリットがなく、研究は行われなくなってきています。ただし、将来的に3次元光記録やホログラフィックメモリなどの記録方式が必要になる際には、フォトクロミック化合物が有力な候補になると考えられます。

テーマ:システムデザインにおけるナノ構造  講師:藤井克司(2024.12.13)

Q. ダイオードについて、欠陥が多いと寿命が短くなるというデータはわかりましたが、そもそもどのような状態になることを劣化すると位置づけているのか理解が追いつきません。

A. これは、まさに知っている人の常識で話をしてしまった典型例で、申し訳ありませんでした。なかなか簡単ではない良いご質問です。

発光ダイオードはその名の通り、「ダイオード」ですので、電流―電圧特性はダイオード特性を示します。電流を構成する電子がすべて発光に使われた場合は電流の利用効率が100%となりますが、例えば、この電流の一部が欠陥を介して流れ始める(電子と正孔が発光再結合を行っていた状態から非発光再結合を行う状態に変化する)と、電流の利用効率が低下していきます。この発光効率が低下していく現象を劣化と表現します。

多くの欠陥は最初からその欠陥に電流が流れ、欠陥が多い場合は一般的に発光効率自体が最初から低くなります。一部の欠陥は、最初は欠陥自体が電流を流す道筋となっていないのですが、ここに電流が流れるといったエネルギーが加わることにより、時間とともにこの欠陥が変化し、欠陥を通って電流が流れやすくなり現象が起こっていると考えられています。

ここでは、発光ダイオードを半導体として捉えましたが、樹脂封止まで含めた全体のデバイスととらえるともう少し広義な樹脂の光の透過性低下などの劣化も現れます。文章でのご質問でしたので、少しWebを探してみたところ、以下のものがありました。参考になるかもしれませんので、よろしかったらご確認下さい。 www.stanley-components.com/data/technical_note/TN006_j.pdf

テーマ:ナノ粒子触媒を用いた官能基変換反応  講師:水垣共雄(2024.12.20)

Q. AgとPdでのコアシェル型に関して、Pdの高すぎる活性をAgで覆って抑えるといった話がありましたが、ほとんど活性がないAgで覆ってしまっていても、なぜ水素化能が発現するのでしょうか。
実際の水素がトラップされている金属表面は隙間からアクセスしたPd上なのでしょうか、それともAg自体の活性がPdの影響で上がってAg上にトラップされるのでしょうか。お分かりになる範囲で反応機構を教えていただけますでしょうか。

A.今のところは、Ag微粒子間の空隙をH2が拡散し、解離した水素種がAg上に拡散して反応していると考えています。

Q. PVP等がナノ粒子の安定化剤につかわれるという例がありましたが、使用されるポリマーに制限、あるいは望ましい性質等はあるのでしょうか。

A.ナノ粒子表面に吸着して安定化をするので、配位性の官能基を有するポリマーが良いと考えられます。

テーマ:分子動力学シミュレーションを用いた分子集合系のミクロ解析 講師:松林伸幸(2025.1.15)

Q. 水の溶解性についてお話しいただきましたが、新規分子の構造から溶解性の良い溶媒の選定等は可能でしょうか。合成時の分液やカラム等での有機溶媒の選定に便利だと思いました。

A. 溶解性は、(溶媒中での溶解分子の安定性)-(純物質中での溶解分子の安定性)です。純物質が固体のときには安定性を規定する自由エネルギーの計算が大変ですので、上の引き算では第2項が難しいことが多いです。ただし、溶解分子を固定し溶媒を探索するのであれば、(純物質中での溶解分子の安定性)は定数になりますので、溶媒の好ましさのランキングをつけることができます